Open Heart〜密やかに たおやかに〜
テーブルの上に置いたひび割れたスマホを眺めた。それから、狭い部屋の中を見わたす。
ひび割れたスマホと、この狭い部屋は、私そのものかもしれない。
でも、私にしたら、この部屋は狭いながらも楽しい我が家に違いない。
文句言いながらも来てくれたシュウちゃんの姿が部屋のあちこちに見えるように感じる。
じんわりと込み上げる熱いもの、目から涙がこぼれてきていた。
シュウちゃんから今聞いた話は、私みたいな庶民には考えられない話すぎていた。到底信じられそうにない。
裏切られた気分と、悲しすぎる現実にひたすら胸が苦しくなっていた。
人間の気持ちも、まだ見えない未来も自分が思う通りには絶対にならない。わかっていたけれど、切ない気持ちでいっぱいになる。
日常的に思い通りにならないものとしてあげるとすれば、天気がまさしくそれだ。
雨が降りそうだからと折りたたみ傘を持って出たのに、結局1日中雨は降らなかった。その場合、傘を持って出たのは、失敗だったなと思えてしまう。
次の日も雨が降りそうな天気。でも、昨日も降りそうで降らなかったから、今日は傘を持って行かなくても大丈夫でしょう。そんな風に考えて傘を持っていかない。
でも、そんな時に限って大体、突然の豪雨に見舞われたりするのだ。
それと同じで、ひょっとすると人生も自分が思う方とは逆に進んでしまうものなのかもしれない。
通話をやめ、触らないでテーブルに置いたスマホが振動を始める。
ある一定のリズムを刻むように震えては止まり震えては止まる。繰り返しその動きをひび割れたスマホは、やりたくないのにやらされてそうな感じで私に見せていた。
しばらくして、ずっと、振動していたスマホがぴたりと動きを止めた。部屋の中に静寂が広がる。
聞こえるのは、冷蔵庫の低い唸り声だけだ。
もう一度、部屋の中を見まわす。
さっき見えていたシュウちゃんの幻が、シャボン玉が弾けるみたいにして、ひとつまたひとつと消えていく。
再びスマホが振動を始めた。
何も見たくないから瞼を閉じ、何も聞きたくないから両耳を掌で押さえた。