Open Heart〜密やかに たおやかに〜
5、願い

いつもどおりに夜は明けた。
きっと、どんな人にも同じように夜が訪れ、朝が来る。たぶん、これこそ、神様が人々に平等に与えたものに違いない。


結局、私は眠ることも出来ずに夜をやり過ごし、新しい朝を迎えた。



かなり早めに会社へ着くと、既に来ている人がいてフロアに入るなり足を止めた。

来る途中にコンビニで買ってきたアイスカフェラテとたまごサンドの入ったビニール袋をカサカサさせていたせいで、窓の外を見ていたその人物が音に気づいてこちらを振り返る。

「宮路か、早いな」
シュウちゃんだ。
いつもどおりの課長フェイスで、無表情を装いすかしている。

「……おはようございます。岡田課長」
朝イチからシュウちゃんに会うとは、やりにくい。昨日の今日だし、気持ちはかなり複雑だ。


自分のデスクへ行き、ビニール袋から買ってきたものを取り出してデスクへ置く。

私の場所まで近づいてきたシュウちゃん。
「朝、これから食べるのか」

「はい」
椅子に座りストローをドリンクに差し込んだ。

視線を感じ、見上げてサンドウィッチを差し出す。
「まだでしたら、ひとつどうぞ。2つしかないので全部はあげられませんけど」

シュウちゃんは、私の言葉に少し面食らったような顔をした。

「なるほどな。宮路は、ひとつで足りるか?」

サンドウィッチを手にしたくせに今更そんな事を聞いてくる。

「手をつけてから、そういうこと言われても足りないとは言いにくいですよ」
時間もないので、私もたまごサンドにかぶりつく。

「そうか。宮路ならそういうのもハッキリ言うのかと思った」
いつの間にか、隣の椅子に座り、私があげたサンドウィッチを食べるシュウちゃん。


「……目が腫れてる」
誰もいないとはいえ、会社の中なのにシュウちゃんは私の顔へ手を伸ばしてくる。

「ちょっ…と、岡田課長……大丈夫ですから心配しないでくださいよ」
伸びてきたシュウちゃんの手をサッとはらいのける。

「心配しちゃダメなのか?」

いつもプライベートでよく目にする眉毛を下げたシュウちゃんの顔が目の前にあった。

「! 岡田課長、何言ってるんですか? ははっ」

シュウちゃんってば、どうかしてる。
会社とプライベートがわからなくなってるんじゃない? 昨日の言い争いの後遺症だろうか。

「もう少しだけ我慢してくれないか? 樹里」

「じゅっ! 樹里って、ちょっと、シュウちゃんじゃなくて課長、どうかしてますよ。ここは会社で…」

周りを見回して焦りまくる私の口の端にシュウちゃんの親指が触れた。

「たまごかな? ついてるよ。宮路」

シュウちゃんってば、会社とプライベートがごちゃまぜだよ。こんなんじゃ、みんなにばれちゃう。

私の心配をよそに、私の唇についたたまごを指で拭うシュウちゃん。拭った指をペロリと舐めて私に笑顔を向ける。

「ちょっと、どういうつもり!」
超小声で抗議すると、シュウちゃんは私に顔を近づけて真正面から私を見つめた。
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