Open Heart〜密やかに たおやかに〜
「宮路、ちょっと来い」
シュウちゃんに課長フェイスで呼ばれ「はい」と返事をし、シュウちゃんのデスクの前に行った。
「この企画書は一体なんだ?」
「なんだとは……なんでしょう?」
まただ。
シュウちゃんってば私にだけ厳しいんだから。
「数字が一切出てこない。具体的に数字を入れて書き直しだ」
私の企画書をデスクに置くシュウちゃん。
「あの課長、お言葉ですけど、あえて数字を入れてないんですよ。どうしてかと申しますと、数字を入れてないのはですね〜」
「御託を並べるな。聞いている時間は無い」
立ち上がりシュウちゃんは、青いファイルを持った。
「時間がないなら、ある時に言えばいいのに」
ブツブツ言っている私の胸にシュウちゃんは、企画書を押し付けた。
「なんか言ったか? ん、宮路」
シュウちゃんは私の前に立ちはだかり、上から見おろしてくる。
「いえ、書き直せばいいんですよね? 書き直せば」
恨みがましくシュウちゃんを睨む。
全く、書き直しなんて嫌になる。
シュウちゃんは私に毎日残業させたいのだろうか。
無表情でシュウちゃんは、私の頭頂部に手を伸ばしてきた。
亀みたいに首をすくめる私の頭を手でくしゃくしゃと乱暴にしながら「そういうことだ」と、クールに言いすてて何処かへ行ってしまう。
くしゃくしゃになった髪を手で直しながら、席に戻る。椅子に座るとマキが自分のデスクから椅子ごとキャスターを使いこちらまで移動してきた。
「そういうことだ」
マキはシュウちゃんの声色を真似しながら、私の髪をくしゃくしゃにする。
「もう、やめてよね。毎度毎度課長の真似して〜」
また、くしゃくしゃになった髪を両手で直す。
「真似もしたくなるわよ」
「どうしてよ」
「だってさ、課長に頭をコツコツやられるのも、頭をくしゃくしゃされるのも私の知る限り……樹里だけなんだもん。なんか悔しいじゃない?」
「えっ……」
今まで全く気がつかなかった。シュウちゃんは確かに私にしかそういった行為をしないかもしれなかった。