Open Heart〜密やかに たおやかに〜
私の前髪を指で少しわけて、シュウちゃんは額にキスを落とす。
「大丈夫だ。今度こそ親父もわかってくれたよ」
「本当に?」
すぐにお義父さんに話をつけに行ってくれたシュウちゃんの行動が嬉しかった。
「ああ、俺の気持ちは絶対に変わらないって話をしたら、今度こそ理解してくれた。俺たちの結婚を認めてくれたんだよ」
「シュウちゃん…私…」
涙がじわっと、こみ上げてくる。
本当に私たち結婚出来るんだね、本当に……。
シュウちゃんの胸に顔を埋める。
「心配させてごめんな。もう、こんなことには絶対ならないようにする」
「うん」
嬉しくて涙が出てきた。
「ありがとう、シュウちゃん」
こぼれ出した涙をシュウちゃんが指で拭いてくれた。
「樹里、泣くなよ〜」
眉毛を下げるシュウちゃん。
「……うん、ごめん」
見つめあい、どちらからともなくキスをしていた。触れるだけのキスだ。とはいえ、場所が場所だ。
そうだ。
まだ、会社だった。
お互い照れたように笑って背中に回していた腕を静かに離す。
「宮路、き、企画書出来たか?」
誰もいないようだが、急に下手な猿芝居を始めるシュウちゃん。
高ぶった感情のままに会社でキスをしたのが初めての経験で、シュウちゃんも私もテンパり気味になっていた。
「は、はい。だから、置きましたって」
デスクを指差す。
「出来たなら、見ておくからサッサと帰れ」
「もちろん帰りますよ。今帰るところだったのに課長が……」
シュウちゃんがキスなんかするから、帰れなくなったのだから。シュウちゃんが悪い。
「俺のせいにするな」
「わかりました。もう帰りますよ」
ショルダーバッグの紐を肩にかけて私は先に廊下へ出る。
エレベーターホールで1人、エレベーターを待っているとシュウちゃんが靴音を響かせやってきた。