Open Heart〜密やかに たおやかに〜
会社を休んで父さんに付き添う。
幸いにも昨夜の手術は成功し、命をとりとめた父さんだが、意識は未だに戻っていなかった。
「父さんは、治って働けるようになるだろか」
丸い椅子に座っている母さんが呟いた。眠り続けている父さんを見つめている母さん。
「絶対に治るわよ」
諭すように言って母さんの肩に手を置く。
「母さんったら、どうして今そんな事言うの? 父さんが助かっただけで嬉しいのに。これから働けるかなんて話……今言わないでよ」
父さんの手を握りしめていた浩美が、母さんを睨みつけた。
「だって、おまえ達は子供だから考えないでいるつもりかもしれないけどね……入院費だってかかるのに。もし、このまま目を覚まさなかったら」
母さんは、昔から何かにつけてお金の心配をする人だった。いつも何かにつけては「赤字だ」「お金がかかるのに」とボヤいていた。
「もうっ、そんな話やめてよ!金金金……そんなんだから父さんが倒れたのよ!」
浩美は大きな声を上げ立ち上がり、その拍子に丸椅子をひっくり返してしまう。
倒れた椅子を元に戻し浩美を座らせ、立ち上がっていた私は座っている母さんの骨ばった肩に手をやる。
「……母さん、外に出よう。少し風に当たらない?」
母さんを立たせて、寄り添うように支えて歩きドアを開け廊下に出た。
すると、ドアのすぐ近くにシュウちゃんが立っていた。
「シュウちゃん……」
朝早くにシュウちゃんへ電話をしたのだ。父さんが倒れたから仕事をしばらく休みたいと伝えた。
心配して病院まで来てくれたようだ。きたはいいが、おそらく今の私たち家族の言い合いを聞いてしまい、入るに入れなかったに違いない。