Open Heart〜密やかに たおやかに〜
「あら、秀之さん。来てくれたのね、ありがとう」
途端に元気になる母さん。
母さんは、シュウちゃんの手を握り笑顔を見せた。

母さんは、シュウちゃんのことをとても気に入っている。気に入ってるのは、人柄や容姿ではなく、シュウちゃんの家柄だ。社長の息子と聞いて、母さんは手を叩いて喜んだのを今でも良く覚えている。


「そうだ、秀之さん。お願いがあるの。あの人の入院費がね」
「母さん、やめて!」
母さんが余計なことを言わないうちに話を止めさせたかった。

「なんでよ。秀之さんにとっても義理とはいえお義父さんになる人なんだよ。入院費くらい、社長の息子なら負担してくれたって、ね〜」

「母さん! お願いだから、それ以上言わないで」
今日ばかりは、一瞬だけれど、母さんの口に何かを押し込みたいくらいの気持ちになった。

すぐにそんな考えを持った自分を恐ろしく感じ、ひどく恥じたものの、一瞬だけは、本気だったように思う。

母さんのことを心底恥ずかしいと感じてしまったのだ。

シュウちゃんには知って欲しくなかった。自分の母親の本音むき出しの哀れで無残で、情け無く、恥ずかしい姿を見られたくなかった。


「もちろん、お力になれるように努力します。お母さんは心配なさらないでください。今はどうかお義父さんが治られることを信じましょう」
シュウちゃんは、母さんを励ますように手を握り返し優しく声をかけた。

「そお? 悪いわね。ふふふっ、秀之さんがいれば安心ね。ホント、樹里はいい人を見つけたわね〜」

「……」

機嫌が良くなった母さんを一旦病室へ返し、私はこのまま会社に戻るシュウちゃんを病院の玄関まで見送ることにした。

シュウちゃんと並んで歩く廊下は、なんだかとても静かだ。



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