Open Heart〜密やかに たおやかに〜
病院の玄関口を出て、タクシー乗り場までシュウちゃんを送る。
「シュウちゃん、母さんが……ホントにごめんね。変なこと言ってて。気にしないで」
「なんでだよ、いいよ。俺が出来ることはするつもりだったから、お金の心配ならしなくていい」
ピタリと足を止めシュウちゃんを見上げた。
「そういうの…やめてよ。シュウちゃん」
「ぇ?」
「そんな事言うの、やめて。私、シュウちゃんには迷惑かけたくないの」
うちのお金の問題をシュウちゃんに頼むつもりは無かった。そんな事をしたら、私はシュウちゃんに普通の顔をして会えなくなりそうだ。
「迷惑なんかじゃないよ」
「恥ずかしいの」
「えっ?」
「お金に困ってるなんて恥ずかしいことなのよ」
まっすぐにシュウちゃんを見つめる。
「あんな風にお金に汚い母さんも恥ずかしい」
私はタクシー乗り場の手前で横に下ろしていた自分の両手を拳にして、ぎゅっと握りしめていた。
「シュウちゃん、私、母さんも嫌だけど、母さんを悪く言える、こんな私も嫌で嫌でたまらない。恥ずかしくてたまらないよ」
自然に鼻がツンとしてきた。
自分だって大した人間じゃないくせに、産んで育ててくれた母さんを恥じてしまう私自身が本当に情け無くなる。
握りしめていた私の両手をシュウちゃんは目の前に立ち両方共支えて持ち上げる。
「こんなに手を握りしめるな。力を抜いて」
シュウちゃんは、爪が掌に食い込みそうになるほど握りしめていた私の指を優しくなでる。
「樹里、そんな風に1人で苦しまないで」