Open Heart〜密やかに たおやかに〜
徐々に開いた両方の手。
その手をそっと握り、シュウちゃんは自分の方へ私の身体を引き寄せる。
柔らかくハグされて、余計に泣きそうになる。
「全部大丈夫だ。俺がいるだろ? 安心してくれよ。それとも俺じゃあ頼りにならないか?」
顔を上げると、私の好きなシュウちゃんの頰に出た笑い皺が見えた。
「でも……シュウちゃん」
「自分のことを嫌だって思うな」
シュウちゃんは私の頭を優しく撫でてくれる。
「……」
「そんな事は、2度と言わないでくれ」
鼻が痛いくらいにツンとなる。
「だって……」
「樹里は、俺が好きな女だ。だから、樹里を2度と悪く言わないでくれ」
背中を撫でてくれるシュウちゃんを黙って見上げた。
「……」
優しく私を見おろすシュウちゃんの顔。
「誰にも樹里の悪口は言わせない。どんな樹里も、俺には最高に魅力的なんだから」
ニコッと歯を見せて笑うシュウちゃんは、私にとって魅力的だ。
「馬鹿ね、シュウちゃん……なんで私みたいな女が好きなんだろ」
「さあな。でも、後悔したことはないから」
「え?」
「樹里を好きになって後悔をしたことは一度もないよ」
「シュウちゃん」
もう一度ハグしてから、シュウちゃんは私から離れた。名残惜しい気持ちから、シュウちゃんの右手を握る。
「さ、もうここで見送りはいいよ。どうせ夜にまた来るんだから」
「夜にまた来てくれるの?」
「当たり前だろ」
「ごめんね…朝から嫌な思いさせて、母さんには言っておくから」
「樹里、お義母さんをあんまり責めるな。そっとしとけ。お義父さんが倒れて色々と心配なんだ。その気持ちはわかるだろう?」
シュウちゃんの左手が私の頭をポンポンと撫でた。
「……うん」
「だったら、樹里はお義母さんまで倒れないように優しくしてやればいいよ」
「……うん」
「もちろん、樹里も無理するなよ。会社は心配するな」
私の後頭部に左手を当てて引き寄せ、額にキスを落とす。タクシーに乗り込むまでシュウちゃんと手を繋いでいた。
大きくて包み込むようなシュウちゃんの手が私の手から離れていき、最後まで触れていたのは私の人差し指の先とシュウちゃんの中指の先だった。
完全にシュウちゃんの指先が私から離れてしまう時に、よくわからないが一抹の不安を感じていた。
何故だかは、わからない。
ある種の予感めいたものを感じていた。