Open Heart〜密やかに たおやかに〜
7、決断
父さんの意識が戻らないまま、何日か過ぎた金曜日の夜に私は、シュウちゃんの父親、つまり社長から呼び出されていた。
迎えに来た黒塗りの外車。
そして、前の日にお義父さまに言われた言葉が気になってもいた。
『私と会うことは、秀之には内密に』
乗り慣れない外車の後部座席に小さくなり、やけに広く感じる車内に落ち着かない気持ちになる。何度も何度も座り直したが、それでも一向に落ち着かなかった。
連れて行かれた場所は高級そうなお寿司屋さんだった。個室に通されると、既に社長は1人で座っていた。
私が向かい側に座ると、
「久しぶりだね、樹里さん。お義父さんの具合は、どうかな?」
社長は心配そうに眉毛を下げる。眉毛の下り加減がシュウちゃんによく似ていた。
「はい、おかげ様で……意識はもどりませんが回復はしています」
「失礼致します。ズワイガニのお造りと茶碗蒸しでございます」と配膳係が2人やってきて目の前に立派なズワイガニのお造りと小鉢を持ってきて、取り皿を私と社長それぞれの前に並べた。
配膳係が下がると、社長はおしぼりで手を拭いた。
「近いうちにお見舞いに伺ってもよろしいかな?」
「はい、もちろんです。父も喜びます」
頷いた社長はおしぼりをテーブルの脇に置いた。
「うむ。さて、君も忙しいだろうから、早速本題に入ろうかな」
社長は、体を前に少し出してジャケットの内側、胸の辺りに手を入れた。