Open Heart〜密やかに たおやかに〜
8、冷たい男
次の日、父さんが倒れてから看病のためにしばらく休んでいた会社へ久しぶりに出勤をした。みんな私を心配してくれた。
いつも通り仕事をこなし、いつも通りに同僚と会話をして、昼食を食べ、業務に戻る。
「宮路、品川駅前店の販促イベントに使うサンプル用意出来てるか?」
シュウちゃんが、私の方を向いている。
大好きなブラウンの瞳と目が合う。
「はい、駅前店に届いているはずです」
「はず? 店に確認してみろ。あと、営業にサンプリング人数足りてるか確認してみてくれ」
リニューアルオープンするアパレルショップを盛り立てる為のイベントを企画するのも販売企画部の大切な仕事だ。
「はい。わかりました」
電話の受話器を取り、品川駅前店へ電話をかける。
なんてことのない仕事のやりとりだ。
でも、これがシュウちゃんとマトモに仕事を出来る最後の日になるかもしれない。そう思うと涙が出そうになる。
きっと、これからは、私を見るシュウちゃんの目が、そして、態度が変わってしまうと思う。
私が進むべき道の方向を変えてしまったから。
家族かフィアンセか……との選択を迫られ、昨夜、私は自分の口で答えたのだから。
『結婚は……諦めます。シュウちゃんとは別れます』と。
私の答えを聞き、満足そうに頰を緩めた社長の表情をまともに見られなかったのを思い出す。