Open Heart〜密やかに たおやかに〜
エレベーターホールについても、山田課長は口を開く様子はなく、地下にある駐車場についても終始無言だった。
乗用車に乗ると、山田課長はようやく口を開いた。
「しかしなぁ〜まさか、あんたが王子の女だとは、考えても見なかったな。フッ…」
助手席に座った私を改めて見た山田課長は鼻で笑った。
「あんたって…」
いつも冷たいけれど丁寧な話し方だった。なのに、急に人が違ったような言い方をされ驚いてしまう。
「王子の女って何です?」
しょっぱなから、嫌な気分だ。
「社長が王様なんだから、その息子は王子だろ? だから、あんたは王子の女だ」
ふざけられている気分がしたし、やはり馬鹿にされているように思えた。
窓の閉まった車内は、少し湿っぽい。窓を開けたいのに、まだ、車のエンジンがかかっていないため開けられなかった。
運転席の山田課長は、エンジンをかけるより先に座る体勢を変え私にまっすぐ向く。
「とりあえず、これからは俺の命令に従ってもらう」
「命令って…」
言い方もいちいち癪に触る。だが、私は、それを言い返せるような身分では無かった。