Open Heart〜密やかに たおやかに〜
9、嘘の始まり

品川駅近くのショッピングセンター近くに今週末リニューアルオープンするショップに来ていた。

店の外へ見えるようにして入り口のガラス扉には、リニューアルオープンを告知する紙が貼られている。

扉を押し中へ入ると内装のリニューアル工事も全て終了し、ディスプレイもほとんど済んでいるようで、後はオープンを待つばかりの状態にみえる。

「お疲れ様です。山田課長」
私たちが入ってくるのを見て、白い布を畳んで棚の上に置き頭を下げる従業員らしき女性。

「お疲れ様です。篠原店長はスタッフルーム?」

「はい、奥にいます」

山田課長について、奥へ入っていく。

スタッフルームと札のかかる扉をノックして開ける。

中は、六畳ほどの部屋になっていて真ん中にテーブルと椅子が四脚あり、壁際にロッカーがある。

椅子から立ち上がり、
「山田課長、お疲れ様です。サンプル包装ですよね。この一箱だけが包装されてないものです」
と、明るい笑顔で挨拶してきた女性が篠原店長のようだ。

「あの……山田課長に包装していただかなくても、後でスタッフでやりますが」
山田課長の顔色を窺うように見上げる篠原店長。

「いや、あと、オープンまで2日しかない。ここは、俺たち2人でやるから、店長は他のことやっててくれればいい」
サンプルが入った段ボール箱に手をかける山田課長は、相変わらず無表情だ。

「そうですか……申し訳ありません。では、包装の材料などは全て揃えてありますので、よろしくお願い致します」

私と山田課長にそれぞれ頭を下げて篠原店長がスタッフルームを出て行ってしまう。

山田課長は、段ボール箱から淡い桜色の不織布で出来た袋にピンクのリボンが結んであるものを1つ取り上げて私に見せた。

「さて、仕事内容を説明する。リニューアルオープン記念のハンドタオルが入っているこの袋に、販促チラシとハンドクリームのサンプルを入れなおし、リボンを結ぶ。たったそれだけの単純作業だ」

そう言って、自分だけ先に椅子に座った。


慌てて向かい側に座り、袋を取り出してみた。

「樹里、お前は俺が開けた袋にチラシとサンプルを入れろ。リボンは最後に中身を確認しながら結ぶ」

樹里といきなり呼び捨てされて、戸惑うし、出来るならむやみに呼ばないで欲しいと感じた。
「あの、今は名前で呼ばなくても」

「間違えないように入れろ。単純な作業なんだから」

無表情に袋を開けていく山田課長。
どうやら、私の言うことに耳をかしてはもらえなかったようだ。

仕方なく息を吐いてから返事をする。
「……はい」
自分で取り出した袋を段ボールへ戻し、私は山田課長がリボンを外した袋を受け取った。

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