Open Heart〜密やかに たおやかに〜
黙々と袋にチラシとサンプルを入れていく。
段ボール箱に入っていた袋に全部チラシとサンプルを入れ終え、あとは中身を確認してリボンで縛ればおしまいだった。
向かい側にすわる山田課長は、黙ってロボットみたいに手だけを動かしていた。
カサカサと布と紙が擦れる音だけがしていて、なんとも気詰まりだった。
「王子とは、いつからどこで?」
「えっ?」
突然の質問に面食らってしまう。
「手は止めないで答えろ」
「はあ」
シュウちゃんとの付き合いを山田課長に話す必要があるのだろうか。
「2年前、図書館で」
「図書館? 王子は図書館なんかに行くのか?」
人には手を止めるなと言っておきながら、自分は堂々と手を止めて私に視線を向ける山田課長。
「えぇ、シュウちゃんは、お金持ちっぽくない人だから」
「プライドの高い金持ちに限って、わざわざ庶民派ぶるもんだ。だから……」
山田課長は、口角だけを上げてみせた。瞳は笑っていない。
「あんたなんだな」
「どういうことですか」
ムッときて山田課長を睨んだ。
「庶民派を気取ってるから、町娘と結婚したいなんて言い出したわけだ。本当は、そんな気持ちなんか無いのに」
メガネの奥の瞳は、私の心を刃物で刺すように鋭かった。
「いっ、いい加減にして下さい! シュウちゃんのことは悪く言わないで」
山田課長にシュウちゃんのことを、わかった風に言われたくなかった。
「これから別れようとする男を悪く言うなとか、カッコつけるな」
椅子から立ち上がって私のところまで、ツカツカと歩いてきた山田課長。
ジッと睨み上げる私の顎を掴み、
「まさか、あんた」
山田課長はグイッと私の顔を引き寄せ、目を見開き私の瞳を覗きこんできた。
まるで私の心まで見透かそうとしているように思える。
「別れたくて別れるんじゃない、無理矢理別れさせられるんだ……こんな私って、なんて可哀想とか思ってんのか?」