Open Heart〜密やかに たおやかに〜
「そんなこと思ってません!」
私の顎を掴んでいる山田課長の手を振り払い、改めてきつく睨んだ。
山田課長って人は頭にくる言い方しかしない。
「自分を悲劇のヒロインに仕立てあげて酔うのはよせ」
「酔ってなんかいません!」
最高にムカムカして、テーブルにバンッと手をつき椅子から立ち上がる。
山田課長に向き合い、私は一歩も譲らない構えだ。
「ふん。あんたは全然わかってないな」
「何をですか!」
「金持ちの考え方だよ。金持ちは、自分のことだけしか考えない生きものだ。王子もあんたを利用してたんだ。期間限定の町娘との許されない恋をする自分に酔って楽しんでいただけだ」
「そんなのありえない」
立ったまま、失礼な話を続ける山田課長を睨みつけていた。
「そうか?」
「当たり前でしょう。シュウちゃんと私は本気で付き合ってたんだから」
「本気かどうかなんて、どうやって見分ける? 人の気持ちは目に見えない」
馬鹿にしたように山田課長は、薄ら笑いを浮かべた。
「見えなくてもわかる。シュウちゃんを信じてるから」
「笑わせるな。信じてる? 金の為なら簡単に王子を裏切る女が言うセリフかよ」
山田課長は、ギロリと私を睨んだ。
「……」
怒っていた私が思わず、たじろいでしまうほど怖い目つきだ。
また、一歩近づいてきた山田課長。
「いいか、よく聞け。俺は誰であれ裏切るような事をする女は信用しない。だが、あんたは俺のビジネスパートナーだ。しかも、大事な案件のな」
山田課長は、私の肩に馴れ馴れしく手を置き、少しかがんで私の耳元に顔を近づけた。
「だから、特別に教えてやろうか? あんただけが知らない事を」
髪に山田課長の息がかかる。