Open Heart〜密やかに たおやかに〜
物語は、まだ序盤。
そうだとしたら、私はこの物語の先を読みたくない。
物語は、ハッピーな方がいい。私は、この物語の主人公ではなさそうだ。物語は、きっとシュウちゃんが主人公だろう。
序盤から浮気する女なんて、最低な悪役に違いない。
そんな悪女は、踏み台にしてシュウちゃんには進んでいってほしい。
シュウちゃんの物語をハッピーエンドで終わらせるために。
「こんなこと……」
耐えられない。
出来たら、シュウちゃんを傷つける役なんてやりたくない。
壁に寄りかかったまま私はうなだれていた。
「あんた、途中でおりるなよ」
私に釘をさすように言って、山田課長は階段の踊り場から扉を開けて出て行った。
そう、私は前金を頂いて舞台で演技をしている。貰った報酬分の演技はすべきだ。脇役だが、私の役は私にしか出来ない。だから、途中降板なんて、決して許されない。
涙をぬぐい、私は両足に力を入れる。
今、ようやく私は自分の気持ちを封じ込める決心がついた。一歩ずつ自分で決めた道を進んで行くしかない。
それしかないんだから。