Open Heart〜密やかに たおやかに〜
「ちょっと、どうしてキス?」
「? いや、大丈夫だと言ったから……ダメでしたか」
眉を下げるシュウちゃん。
「ダメですよ。キスの前に告白してくださいよ。せっかく練習してたじゃないですか」
「それは、聞いてたんですよね。だから、もう聞かなくても大丈夫だと言う意味ではなかったんですか?」
「聞きたいですよ。そういう言葉は、ちゃんと」
「ですよね、すいません早とちりして……では、改めて」
姿勢を正して私を見つめてくるシュウちゃん。
「はい」
ドキドキする空間。
ゴクリと唾を飲み込み、私と彼は向き合った。
今よ。今から告白されるんだわ、私。気分がかつてないくらいに高揚していた。
すると、彼は真っ赤になって声をあげた。
「うわっ! ヤバイ。すごい緊張してきた〜」
可愛い。
見ているだけで可愛い人だ。
そう思って、ジッと見つめた。
「……」
「……あ、では、改めて」
深呼吸をした彼は、私を真っ直ぐに見た。
「樹里さん、あなたが好きです。初めて見た時から好きになりました。俺の彼女になってください」
「えっ!」
「え? 驚きます? さっきから、告白の言葉を聞いてたんですよね」
「いいえ、初めて見た時からって言葉は、聞いてなかったので驚きました」
「そ、そうですか……すいません。一目惚れっていうのが初めての経験で……初めて見た時から、もう好きで……」
「やだぁ!」
「やだ?」
「私と一緒なんです」
「一緒?」
「私も図書館で会った時から、好きでした」
「本当に?! やった、えっと……じゃあ?」
コクリと頷くと、私の肩に手を置く彼。
シュウちゃんが私に一目惚れしてくれていたなんて、すごく驚いたし想定外な出来事だった。
すると、当たり前みたいに近づいてくる彼の顔。
「ちょっと! ストップ!」
「え?……」
「今、頷いたのは、お互いに一目惚れ同士でしたね、そうねって同意の頷きですよ。キスは、早いですよ」
「早いですか?」
わかりやすくシュンとなるシュウちゃん。
「そんなに落ち込みます?」
「はい……いえ」
目に見えて落ち込む彼が素直すぎて可愛く思えた。だから、切なくて、可愛くて、どうしようもなくなり私から顔を近づけ、シュウちゃんの頰にキスした。
シュウちゃんはキスされた頰を押さえ、目を見開く。
「岡田さん、可愛いから」
「可愛いですか? 男だし、年上なのに」
「可愛いのは、物も人も好きです。だから、キスしたんですよ。可愛くなかったら、私からはキスしないです」
「俺も可愛いのは好きです。だから俺もいいですか?」
目を輝かせて、シュウちゃんは私を見てきた。
「なにが?」
「樹里さんが可愛いから……あの、してもいいですか?」
「なにをですか?」
シュウちゃんが言いたいこと、したいことの見当はついていた。でも、可愛いから、からかいたくなって、つい恥ずかしいことも言わせたくなる。
「……えっと」予想どおり口ごもるシュウちゃん。
からかうとますます『可愛い』に磨きがかかる。
「ハッキリ言わないと、できまっ」
あっと言う間に唇を塞がれていた。不意を突かれたキスだった。
からかって、すっかり調子に乗っていたら、急に一本取られた感じだった。
不意を突かれたキスは、甘くとろける様なオトナのキスで更に面食らってしまった。
やだ……なんか……いい。
キスの後、放心状態で彼をボゥっと見つめた。
シュウちゃんは、赤いけど優しい笑顔で私を見ている。
「言ってから、するなんて野暮ったい感じだから。ストレートに表現してみました……嫌だった?」
嫌かと聞かれて、嫌じゃないとも反対に良かったとも答えられず、ひたすら固まる私をシュウちゃんはそっと抱き寄せてくれた。