Open Heart〜密やかに たおやかに〜
「デート? あのラガーイケメンの彼ね?!行く行く」
マキに宮本くんの話をしてみた。予想どおり、マキはノリノリの反応を返してきた。
「デートなんて何年ぶりかなぁ〜〜。今日?」
「まさか、金曜日に誘いにくるって」
「なんだぁ。今日でもいいのに」
がっかりした様子のマキ。
「そんな急には、宮本くんも無理だよ。仕事もあるし」
「そうね。仕方ないから、金曜日まで待ちますよ」
「うん。宮本くんには連絡しとくから。楽しみにしといて」
「そうする。じゃあ、今日は仕方がないから久しぶりに樹里とでも食べに行きますか」
「仕方がないからって何よ」
最近は、いつも残業続きだった。それから、シュウちゃんと過ごしてばかりいた。最後にマキと2人で夕飯を食べたのは、いつだったか忘れてしまう位ほど前の話だ。
もう、シュウちゃんとは夕飯、いや夕飯と言わず何も一緒に食べられないし。どこにも行けない。
なんだか、シュウちゃんと一緒に過ごしていた時間が、かなり昔みたいに感じる。
シュウちゃんのことを思い出すと、胸が痛くなる。
マキと2人でエレベーターホールへ向かう。
途中の廊下で向こうから歩いて来たシュウちゃんを見つけた。
目が合って、マキと共に頭を下げ「お疲れ様です」と声をかける。
「お疲れ様」
少しかすれたようなシュウちゃんの返事。
風邪でもひいたのだろうかと心配になる。すれ違ったシュウちゃんを振り返りたくなる衝動にかられていた。
マキの話を耳に入れながらも私の意識はシュウちゃんへと向いていた。
遠ざかるシュウちゃんのたてる靴音。
軽くたんが絡んだような咳払いを聞き、廊下を左へ曲がる時にシュウちゃんの方へ顔を向けた。
シュウちゃん背中が見えた。
大好きなシュウちゃんの背中に走り寄りたい気持ちだった。
大丈夫シュウちゃん?
風邪引いちゃったの? 薬飲んだ?
熱はないの?
聞きたいことは、それ以外にも沢山あった。
でも、現実のシュウちゃんは私を振り返ってはくれなかった。
こうして実際には見えていても、私からは手が届かない人になってしまったシュウちゃんを私は見送ることしか出来なかった。