Open Heart〜密やかに たおやかに〜
「お疲れ様です。岡田課長」
わざわざ、シュウちゃんに声をかける山田課長課長。
「お疲れ様」
「そうだ、岡田課長も宜しければ……」
ぎゅっと腕を掴まれ、私は山田課長の傍に寄り添うように立たされていた。
嫌な予感がしてきていた。
「夕食をご一緒にどうですか?」
シュウちゃんがチラリと私へ視線を向けたが、すぐに山田課長へ笑顔を向けた。
「いえ、今夜は用がありますので。いずれまた」
「それは残念だな。私の彼女を紹介したかったのに」
「! 彼女……ですか?」
一瞬、シュウちゃんの眉毛がピクリと動いたように感じた。
「えぇ、もちろん直属の部下でしょうから彼女のことは、岡田課長もご存知でしょう? 」
山田課長が私の肩へ手を回してみせる。
「……」
無言で私を見るシュウちゃんの視線から逃れるために目を伏せた。
「一年くらい前から付き合ってるんです。樹里の頼みで、ずっと隠して来たんですけどね」
言葉をためるようにしながら、シュウちゃんの様子を窺っているように見える岡田課長。
「一年……ですか」
目を伏せていてもシュウちゃんの戸惑いがわかる。
シュウちゃんと付き合っていた私が、山田課長とも付き合っていたなんて聞いてシュウちゃんは、山田課長の話を信じるのだろうか。
「樹里が将来の伴侶として私を選んでくれたんで、近いうちに結婚するつもりなんです」
逃げ出したい気持ちになっていた。
完全におしまいだ。山田課長の傍に寄り添うように立つ私をシュウちゃんはどんな思いで見ているのだろう。
「樹里から結婚する話を聞いてなかったですか?」
「……聞いてないですね」
「へぇ、仲良くして頂いてたみたいなのに意外だな」
「山田課長、何が言いたいんです?」
「……」
「……」
2人の間に沈黙が流れていた。
顔を上げられずにいた私の体は強張り、少し震えていた。