Open Heart〜密やかに たおやかに〜
「お父さん、こ…」
シュウちゃんの言葉を遮るように社長の笑い声が響いた。
「あはははっ、なんだ秀之。遅れたのは、コレのせいか」
社長はシュウちゃんが手にしている大きな花束を顎で示した。
「はい、すいません」
花束を抱え、社長に頭を下げるシュウちゃん。
「気にすることは無い。花束のせいで遅れたのなら美奈さんも許してくれるさ、ねっ、美奈さん」
社長は横にいるミナさんというらしい女性に視線を向けた。
「綺麗な花束ですね〜。もしかして、私に?」
美奈さんはシュウちゃんを見上げている。
「もちろんだとも。さ、秀之、いい加減、この可愛らしい女性に渡したらどうだ?」
「…はい。…どうぞ」
少しだけ躊躇したように見えたシュウちゃんがミナさんへ花束を渡している。その時にミナさんの指がシュウちゃんの指先に触れたように見えた。
シュウちゃんが私以外の他の女性に花束を渡すところを初めて目にした。
ひどく胸が傷んだ。
たかが、花束だ。誕生日や何らかのイベントで花束を渡す場面はありえる話だ。
だが、今は目にしたくなかった。シュウちゃんが女性に花を渡す場面は、私には息苦しいだけだ。
「ガーベラね。ありがとう。私、この花大好き」
花に顔を寄せる美奈さん。
綺麗な花に喜ぶ可愛らしい女性は、少し離れたところから見ても絵になるようだった。
「ピンクガーベラの花言葉は、確か『熱愛』だったよな?秀之」
「はい……」
熱愛……。
いつしか、後ろを振り返りシュウちゃんたちを見ていた私は、ソファの背をグッと握っていた。
「秀之さん、わざわざありがとう。嬉しい!」
ハツラツとした声を出すミナさん。
「いや…」
「なんだ、秀之、随分と他人行儀だな。久しぶりに会った幼馴染だろ?」
社長がチラリとこちらを向いた気がした。
幼馴染。
シュウちゃんから幼馴染の話を聞いた覚えがない。幼馴染なんていたんだ。
「ああ、無理もないな。こんな風に可愛らしい女性になって突然現れたら戸惑いもするか。ははははっ」
「嫌ですわ。おじさま」
楽しそうに談笑する社長とミナさん。美奈さんの隣にいるシュウちゃん。
相変わらず、モデルみたいにスマートでブラックのチェスターコートが似合っていた。
隣に立ちシュウちゃんを見上げる美奈さん。お人形さんみたいに華やかで可愛らしいミナさんと、シュウちゃんは凄くお似合いだ。
リカちゃん人形には、初めから素敵なボーイフレンドがいる。初めから定められ、みんなが何も考えずに受け入れられるカップルみたいに今、ミナさんの隣にはシュウちゃんがいる。
あの2人を見ても、なんの違和感もない。そうであることが正しいみたいにシュウちゃんとミナさんは並んでいた。