Open Heart〜密やかに たおやかに〜
13.紙飛行機
翌朝、早く出社した私は屋上へ向かった。
手を温めながら持ってきた熱いコーヒーをコートのポケットに入れ、両手で屋上の重い鉄扉を開けた。
冬の風は冷たかったが、空気は澄んでいるように感じて息を吸い込んだ。
屋上に足を入れてしまってから、私は鉄柵近くに立つ人物がいることに気がついた。
後方で、鉄扉がしまる音が大きく響く。
その音のせいで、先に屋上へ来ていた人物がこちらを向いた。
シュウちゃん……。
屋上へ来たことは、間違いだったと今更ながら後悔していた。
そうだった。
この会社を紹介してくれたのは、シュウちゃんで、屋上に連れて来てくれたのも元はと言えばシュウちゃんだ。
一番最初にここへ連れて来てくれた時、シュウちゃんは言っていた。
『屋上に来ると、悩んでたことも結構、飛ばせる』
『飛ばせる?』
『うん、高いところから紙飛行機を飛ばすみたいに自分の思いを風に乗せて飛ばしてみる。そうすると、かなり遠くまで自分の思いを飛ばせた気になる。失敗した時とか後悔した時とかに、ここに来てごらん』
シュウちゃんの瞳が、優しく私を見おろしていた。
『ここから傷ついた心を飛ばすんだ。そうすれば後には、また折れ目のない真っ白な紙だけが残るから』
そう、シュウちゃんに教えてもらってから、仕事でイライラした時や家で母さんと言い争った時には、決まって屋上へ来ていた。
もちろん、シュウちゃんと2人で来たことも沢山ある。
シュウちゃんの言う通り、屋上から紙飛行機を飛ばすみたいにして、自分の情けなくて弱い心を飛ばす。
そうすると、気のせいかもしれないが、かなり心がリフレッシュ出来た。
だから、今日も少しだけでも元気になりたくて屋上へ来てしまった。
ここで、シュウちゃんに会うなんて。
足を止めて、シュウちゃんを黙って見つめた。
「……おはよう」
シュウちゃんから発せられた言葉にビクッとする。
「おはようございます」
動けない私とシュウちゃんとの間に沈黙が訪れていた。
柵から離れて、私の方へゆっくり歩いてくるシュウちゃん。
シュウちゃんは、私の前に立ち、何も言わずに自分が巻いていたブラウン系のマフラーを外す。
外したマフラーを私の首にふんわりと巻いてくれた。
あったかい……。
それに、シュウちゃんの香りがする。いつも通り、甘すぎないワインに似たブラックベリーの香りだ。
幾度となく、私が嗅いだシュウちゃんの香り。ハグされた時、キスした時、sexした時に嗅いだ香りが、今、心身共に凍えている私を取り巻いていた。
「……今朝は、冷えるよ……お先に」
そう言ってから、私の横を通り過ぎ、鉄扉のノブに手をかけたシュウちゃん。
他に何か言うことは無いの?
左手で巻いてもらったマフラーを掴み、右手はノブを引くシュウちゃんの手を掴んでいた。
驚き弾かれたように私を振り返るシュウちゃん。