Open Heart〜密やかに たおやかに〜
私と目が合ったシュウちゃん。睨むようでも悲しむようでもなく、怒るようでもない。私が好きな困ったような顔でも、もちろん笑みを浮かべている訳でもない。
なんだかとても無感情な瞳に見えた。
私を見ているようで、実際は少しも見ていないような感じ。
やがて、シュウちゃんが先に視線をそらしたので、私はホッと息をつけた。
山田課長と私の結婚話は、その日のうちにSNS
や何かで拡散されたらしく、会社の中でその話題を知らない人はいないまでになっていったようだ。
その証拠に廊下やエレベーターですれ違う人に
「いやぁ、とうとうやりましたね、おめでとうございます」と、まるで優勝力士か何かみたいに声をかけられ、ニヤニヤしながら肩や腕を叩かれた。
複雑な気持ちを抱えながら、その度に笑顔で「ありがとうございます」と応える。それは、苦痛以外のなにものでもなかったが、私は演技を続けた。それが最善の方法だと思えたから。
会社の帰りには、周りの人たちの目に気を使い過ぎてだいぶ疲れていた。マキと他愛もない会話をまったり続けながらビルの外に出る。
少し歩いた時、
「そこのお嬢さんたち!」
という声が後ろから聞こえた。
マキと顔を見合わせたが、無言でお互いの顔を見、お互いにお嬢さんという年齢ではないと判断した。
万が一振り返ったりして、自分たちのことじゃなかった!なんて間違いはしたくない。そんな間違いは、恥ずかしいこと、この上ない。
だから、聞こえてはいたが、振り返るのをやめて、そのまま歩き続けた。
すると、
「おい、無視はやめろよ〜。ちょっと、待てよ!」
慌てた声がして、ガシッと私は肩を掴まれた。
驚いて振り返ると、そこには宮本くんがいた。
「驚いたぁ。宮本くん、どうしたの?」
「どうしたもこうしたもあるかよ。今日は、金曜日だからな」
金曜日。しばし、頭を回転させて、ようやく金曜日と言うワードに思い当たった。