Open Heart〜密やかに たおやかに〜
「あ、そうか。あのね、マキ。こちら、私の同級生で」
「縫製工場の社長さんでしょう?樹里から 窺ってますぅ。田邊マキです」
話終わらないうちに、マキが私の前に出てきた。
「マキさんかあ〜いやぁ、すごく可愛らしい名前ですね。俺は 宮本二郎っつうもんです。よろしくお願いします」
元気よくマキの前に両手を差し出す宮本くん。何かの選挙活動を見ているようだ。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
すぐに宮本くんの手を握り握手をしたノリが良すぎるマキ。
「ところで、マキさん、腹へりませんか? 良かったら、これから飯でも」
「あら、ホントに?嬉しい! 今、ちょうどタイミングよくお腹が空いてたところです〜」
「タイミングバッチリっすねー。俺ラッキーだな。じゃ、行きましょうか」
「はい。樹里も行くでしょ?」
「私は…」
2人の邪魔してしまう気がして、ココは行かない方がいいだろうかと返事に迷っていた。
「そうだ、宮本さんには、もう報告してあるの?樹里」
唐突にマキが聞いてきた。
「え、なんのこと?」
いきなり聞かれて、何の話なのか見当がつかない。
マキは私の背中をバシッと叩いてくる。
「やだ。もう、とぼけなさんなってば。樹里の結婚話に決まってるでしょ」
その話か。
宮本くんに報告しているはずがない。結婚なんて、作り話なのだから。
「宮路、おまえ結婚すんの?誰と?」
宮本くんが驚いた顔をして私とマキを交互に見た。
「うちの社のイケメン課長なんですよ。そうだ、宮本さん、今日は樹里をお祝いしてあげませんか?」
目を輝かせ始めた宮本くん。
「おっ、いいですね! 祝いましょうか。なんだよ、宮路、何にも言わねーで水くさい。イケメン課長かぁ、やるな!宮路!やっぱりなぁ。俺さぁ、初めて2人を見た日からそうじゃないかって思ってたんだよ」
宮本くんは、何もかもお見通しだと言いたげに腕組みをし、偉そうに私を見おろした。
話しながら、ビルの方へ顔を向けた宮本くん。
「お、あっ! あれ、ほら噂をすれば…岡田課長だ! 岡田課長〜」
周りにいた人が振り返るくらいに声を張り上げて、宮本くんはビルから出て来たシュウちゃんに向けて手をあげ手招きをする。
どうしよう、宮本くんってば完全に勘違いしてるみたい。
「み、宮本くん、違うの」
早く訂正しないと、これは大変なことになる。
私は、宮本くんの腕をぐいぐい引っ張ってみた。だが、相手は、筋肉がモリモリと沢山ついた宮本くん。私が動かそうとしたところでビクともしなかった。
「岡田課長〜ここです!」
またもや、声を張り上げ手を大きく振ってまで、シュウちゃんを呼ぶ宮本くん。
もう、どうして宮本くんってばシュウちゃんを呼ぶの?!
動悸がする。
もし、シュウちゃんが今ここに来たら、私はどういう顔をすればいいのだろう。今朝、シュウちゃんとの別れに泣いたばかりだというのに。
私の心配をよそに、シュウちゃんが私たちのそばまで早足で来てしまった。
「……あれ、宮本さん。今日は、うちの社にくる予定でしたか?」
私は、そばに来たシュウちゃんを黙って見上げた。シュウちゃんを見ているだけで、自然にしていたはずの呼吸がうまくいかない。息が不自然にとまりそうだ。
「いえ、今日はプライベートで、とても大事な用事がありまして。それより、知りませんでしたよ」
話の途中からニヤニヤし始める宮本くん。
「はぃ?」
怪訝そうに眉毛を下げるシュウちゃん。
違うのに!
どうにか訂正したくて、私は宮本くんの腕をぐいぐい引っ張った。
それなのに、それは私が照れているとでも勘違いしているのか宮本くんは、ますますニヤニヤしてシュウちゃんに近づいた。
「宮路と結婚するんでしょ? 前に会議室で宮路に近づいた俺を無理に引き剥がしたじゃないですか。あの時から、実は俺、2人が怪しいなって思ってましたよ」
とうとうシュウちゃんに余計なことを言ってしまった宮本くん。
宮本くんを阻止できなかった私は、両方の掌で顔を覆った。
だから、もうっ! 違うのに!