Open Heart〜密やかに たおやかに〜

掌で顔を覆いながら、私は思い出していた。

久しぶりに私を発見し、思わずハグしてきた宮本くんに対して明らかにムッとした表情を見せたシュウちゃん。

宮本くんと食事に行っただけで、心配して怒ったシュウちゃん。

シュウちゃんにヤキモチを妬かれたことが初めてだったから凄く嬉しかった。そんなことをすごく前の出来事みたいに思い出す。

あれから、急に色々なことが起こりすぎた。



掌をそろそろと下ろし、腕を伸ばせばハグ出来るくらいの場所に立つシュウちゃんを見上げた。

シュウちゃんは困ったように眉をひそめていた。
「…いや、なんだか宮本さんに誤解されているようだな」

「誤解?」
宮本くんが怪訝そうな表情を見せたので、マキが話に割って入った。
「すいません、私の言い方が悪かったんです。宮本さん、樹里の結婚相手は」

「俺です」

突然聞こえてきた大きくはっきりした声。
その場にいた全員が、突如介入してきた声の主を驚いて見た。


「……山田課長」
呟くみたいにして私は声の主を呼んでいた。

「なんか知った顔が集まってるから来てみたんですけど……俺の噂してたみたいですね」
山田課長は、私の肩を抱いて隣に当たり前みたいにおさまった。

「そ、そうなんですよ。うちの会社の営業課長です。この方が樹里の結婚相手」
慌ててマキが手振りを交えて宮本くんに説明する。

「え? あれ、岡田課長ではなく、こちら?」
瞬きを繰り返す宮本くん。
「え、うそ。俺、完全に勘違いしてたなぁ。いやぁ、宮路の相手は岡田課長だと勝手に思い込んでて…なんかすいません」
頭をガシガシかきながら、宮本くんはシュウちゃんと山田課長に頭を下げた。


「いや、でも、岡田課長と宮路って並ぶと似合いだったから。てっきりなぁ〜。そうか、なんだそうか、こちらのイケメン課長と……ふ〜ん」
宮本くんは、私と山田課長をジロジロと眺めて何故か首を傾げる。

「う〜ん、でも宮路がイケメン好きってことは、判明したな。どっちもイケメンだよ、うん」

隣の山田課長が「それは、どうも」とお礼を言いながらメガネのフレームを指であげた。

「あら、宮本さんもイケメンですよ! なんだか、今夜のこの辺りはイケメン度が高いなぁ〜、ね、樹里」

マキが言う通りだ。
確かに、たった今、この場所においてのイケメン度数を降水確率みたいに計測したら、きっと100%以上に違いなかった。

「……うん」
仕方なく頷いた私に山田課長の顏が近づいてきた。急に私の瞳を覗き込むみたいにしてくる。

人前で、しかも知っている人たちがいる前でこんな風に顔を近づかられたら、とても恥ずかしい。それでも、付き合っているという設定上、私は手も足も出せない。

ジッとしている私の瞳を探るように見た山田課長。

「嬉しいな。樹里も俺のことをイケメンだって思ってるのかぁ。いつもは、そんなこと言ってくれないから」
言いながら、私の顎に指をかける山田課長。

「っ!!!!!」

それから、私がまるで想像もしていなかった事件が勃発した。

それは思いも寄らないことであり、私にとって絶対にあってはいけないことだった。だがそれは実際に起こってしまった。


顔を覆うみたいに近づいてきた山田課長。そのまま進んできて、まさかまさかと思う間もなく、すっかり無防備状態でいた私に山田課長はキスをしてきたのだ。

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