闇喰いに魔法のキス
第3章*ダウトとタリズマン
「ふぅ…!これで全部買ったかな…?」
色々あった社交パーティの日から一週間後。
青空に太陽が輝く真っ昼間。
私は街の市場に出て、レイに頼まれた買い出しをしていた。
…“胸の傷事件”から、私はレイと上手く喋れなくなってしまった。
まぁ、あれだけ迷惑かけたんだから、さらりと切り替えられる方がおかしい。
嫌われていたらどうしよう、と悩んでいたが
レイは何事もなかったかのように私を呼びつけ、雑用に借り出すといった感じで、いつもの悪魔ぶりを発揮している。
レイはレイで、どこか緊張してるような気がするけど…
全く表情を崩さないから、レイの思っていることはわからない。
…なんであんなポーカーフェイスでいられるんだろう。
私は、レイの声を聞くたびに
胸が鳴って落ち着かなくなってしまったというのに。
…レイを見るたびに“年上の男の人なんだ”って無意識に考えている自分がいて……
あぁ、もうだめだ…!
同居を始めた頃よりも態度がぎこちないなんて
これじゃあ、さらにレイに気を使わせてしまう…!
悶々と頭を悩ませていると
後ろから私の名を呼ぶ声がした。
「ルミナっ。」
…?
誰…?
ぱっ、と振り向くと
そこには、綺麗な黄金の髪の少年が立っていた。
私は、はっ!として彼の名を口にする。
「ルオン…?!」
私が驚いてルオンを見つめると
彼は、にこっ、と微笑んで口を開いた。
「ふふ、久しぶりだね。またルミナに会いたいと思ってたけど…
こんな所で会えるなんて、運命みたいだ。」
…っ!
さらりと言われたセリフに、私はぱちぱち、とまばたきをする。
…相変わらず、ギルみたいな口調だな。
その時、ルオンが私の提げていた買い物袋をすっ、と持った。
え…?
私が彼を見上げると、ルオンは優しげな表情で私に言った。
「ん、貸して。持ってあげる。
せっかく会えたんだし、一緒に散歩しながらちょっと話そ?」
!
私が返事をする前に、ルオンは私の手から買い物袋を取って横に並ぶ。
その仕草も、さりげなく車道側に並んだところも、本当にギルのようだ。
私は、ルオンに笑い返しながら尋ねた。
「ありがとう。
…ルオンは、この市場によく来るの?」
すると、ルオンは市場を見回して答える。
「うん。僕、今は一人暮らしだから。
ここでよく買い物して、自炊してるんだ。」
えっ!
私はその言葉に驚いて彼を見つめた。
“一人暮らし”…?
まだ十六歳なのに?
…まぁ、私もお父さんがいなくなってからは一人暮らしをしてたけど…。
家族はいないのかな…?
すると、ルオンは私の心中を察したかのように言葉を続けた。
「幼い頃に家族と離れ離れになってさ。
…まぁ、色々あってね。」