闇喰いに魔法のキス
その時、私の頭上から声が聞こえる。
「しょーがねぇから送ってやるよ。今、着替えるから少し外で待ってろ」
私は、その声に慌てて答える。
「いえ!送ってもらうなんて悪いです…!レイさん…って言いましたよね?あの、私は一人で帰れるので気にしないでください」
すると、銀髪の青年は、はぁ、と息を吐いてどこか気だるげに言った。
「いいから、変に遠慮すんな。送ってやるっつってんだろ。大人しく待っとけ」
何を言っても、送ってくれる意思は変わらないみたいだ。ここはお言葉に甘えることにしよう。
私は、彼の言葉にぎこちなく頷くと、レイさんの言葉通り外で待つことにした。
酒場の扉を開けて、バタン、と扉が閉まる。
その時、中に残った青年たちは、お互い無言で酒場の扉を見つめていた。
「………“ギル”」
ロディが小さく声をかけた。
ピクリと反応した銀髪の青年は、黙ったままロディの言葉の続きを待つ。
「お前、昨日どうして嬢ちゃんと闇の接触を防げなかったんだ?嬢ちゃんの親父…ラドリーさんが亡くなってから二年間、ずっとしてきたことだってのに…」
少しの沈黙の後、銀髪の青年はゆっくりと口を開く。
「昨日は、ルミナの働いていたトコの取り引き先を襲った闇を始末してたんだよ。…我ながら、うかつだった。ルミナの方に気を回せなかったなんて…」
しぃんと静まり返った酒場に、時計の針の音が響く。
ロディの低い声が、その沈黙を破って問いかけた。
「それで…どうする?」
「……あ?」
ロディは「嬢ちゃんだよ」と言葉を続ける。
「このまま放っといたら、嬢ちゃんの方から闇に近づくかもしれないぞ」
はっ!と目を見開いた銀髪の青年は、小さく呼吸をして目を伏せた。
そして、低い声で呟く。
「あぁ、わかってる。…何があっても、ルミナは俺が守ってみせる」
その言葉に、ロディは微かに眉を動かした。
そして小さく息を吐いた後、パソコンのキーボードを指で叩き始めて口を開く。
「嬢ちゃんを襲った闇については俺の方で調べておく。…何か分かったら電話する」
銀髪の青年は小さく頷き、すっと服の上にコートを羽織ると酒場の扉を開けて出て行った。
酒場の中の会話が、私に聞こえることはなかったのです。