闇喰いに魔法のキス



ロディとミラさんは、「っ…!」と顔を歪ませて、悔しそうにエンプティを睨む。


私が動揺してその光景を見つめていると

エンプティが、ゆっくりとこちらを見た。


そして、得体の知れない不気味なオーラをまとった声で話し始める。



『ルミナ…、君は何も知らない。ギルのことも、闇喰いの始まりも…。

いや、“上辺だけを知っている”と言った方が正しいかな。』



っ!


どくん!


さっきよりも大きく心臓が鳴った。


ギルが、苦しそうに顔を歪めながら声を出す。



「エンプティ……やめろ……!」



エンプティは、ギルに、ちらり、と目をやると

微かに笑みを浮かべて言葉を続けた。



『ルミナ。

君は、この目の前にいるギルが、“二代目闇喰い”だということを知っているの?』



…!!


“二代目”


それは、数分前のギルとエンプティの会話にも出てきた言葉。



…ギルが、“二代目”…?



私が何も言えずにいると、エンプティは私の心の中を見透かすように質問を続けた。



『じゃあ、“黒き狼”と呼ばれてるギル専属の情報屋の主人が…

本当は目の前のギルじゃなく、“初代”だってことは知ってる?』






私の隣に立つロディが、大きく目を見開いた。



ロディが……

“初代闇喰い”の雇った情報屋…?



ミラさんも、動揺したようにロディに視線を向けている。



エンプティは、くすくすと笑うと

よどみなく言葉を続けた。



『じゃあ、なんで“二代目闇喰い”のギルが禁忌の闇魔法を使っても、リバウンドが起こらないか知ってる?』







「やめろ…!エンプティ…!」



ギルが、荒い呼吸をしながら叫んだ。



しかし、エンプティはギルの言葉など聞こえないかのように

私に向かって言い放った。



『それはね、“初代”が、“二代目”に闇魔法を授ける時

自身の命と引き替えに、リバウンドを全て請け負ったからだよ。』



…!



その時、私の頭の中に

以前聞いたモートンの声が響いた。



“大丈夫です。ギルの闇魔法のリバウンドは“先払い制”なので。”


“ですから、今のギルにはなんの影響も……………”



全てが、繋がったような気がした。

握りしめた手が、小刻みに震えている。



…どうしてだろう。

大きな不安と恐怖が込み上げてくる。



声が出せずにエンプティを見つめていると

エンプティは少しの沈黙の後口を開いた。



『“初代闇喰い”が、一体誰なのか…。

自分が知らない真実を知りたいとは思わない?』






“真実”


それは、今までずっと、ギルが私から遠ざけてきたこと。



「エンプティ、やめろ!!

それ以上は………」



ギルが取り乱して声を上げるが、漆黒のイバラに締め付けられ、言葉を詰まらせる。



“聞いてはいけない”


私の頭の中で、誰かかそう叫ぶ。


聞いてしまったら、今までギルが積み上げてきたものが、全て崩れて消えてしまう。



でも、私は拒絶の言葉を言えなかった。



くす…、とエンプティは、私の心を見透かすように小さく笑い

静かに真実を語りだした。


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