闇喰いに魔法のキス
『“初代闇喰い”は、元は有名な魔法学者だった。
この研究所が廃墟となる前、ここに勤め、実力も人望もあった。』
…“魔法学者”……?
どくん…。
心臓の鼓動が少し速まる。
『“初代”は、古代の魔法書の解読するために研究を続けていたけど
研究所で起きた“ある事件”の後、研究所を辞めて、独学で魔法書の解読を始めたんだ。』
…“古代の魔法書の解読”…?
「……やめろ……。」
ギルが、低く声を出す。
しかし、エンプティは話を中断することはない。
『その後、魔法書の解読を続けた“初代”は、ついに解読に成功し、“シン”をこの世に生み出した。
だけど、それがきっかけで闇に襲われるようになってしまった。』
…!
“シン”を生み出した……?
そ、それって………。
つぅ…、と頬に冷や汗がつたった。
エンプティは、微かに口角を上げて言葉を続ける。
『闇と戦わなければいけなくなった“初代”は、魔法書の禁忌に手を出し、闇のみを始末する“闇喰い”となった。
その中で、リバウンドは“初代”の体に蓄積し、“初代”の命は削られていった。』
…どくん、どくん。
鼓動が、どんどん速くなる。
…もう、これ以上は聞いてはいけない。
そう、分かっているのに。
私は言葉が喉につかえて、エンプティの言葉だけが頭に響く。
『古代の魔法書の解読をする研究を続ける傍らで、闇と戦う日々。
彼が研究所を辞め、十年が経とうとした頃。彼の体力は限界に来ていた。』
「…やめろ、エンプティ…。」
ギルが、顔を歪めて声を絞り出す。
私の体に緊張が走る。
『“初代”には、唯一の家族の娘がいた。
死が迫ってきていることを悟った彼は、このままでは魔法書の研究を続けるどころか、娘を守ることすら出来なくなる、と考えた。』
「やめろ……!」
『“初代”は、自分が残していくもの達を、何をしてでも闇から守らなければと決意した。
彼は、自身の研究をかつての研究所の同僚に託し、“シン”を密かに娘の中に封印することで、すべての決着をつけようとしたんだ。』
どくん…!!
私は、目を見開いた。
「やめろ…やめろ…!」
ギルの苦しそうな声が耳に届く。
カタカタ…、と、体が震えだした。
私の頭の中で、エンプティの言葉とかつての記憶が重なっていく。
『そんな時、死期の迫る“初代”の元に、一人の青年がやって来た。
青年は、かつて“ある事件”の時に“初代”に受けた恩を返すため、“初代”の代わりに娘を守っていくことを申し出たんだ。』
どくん!
私は、はっ!として肩を震わせた。
…まさか、その“青年”が…
今のギル………?
ゆっくりとギルへと視線を向けると、彼は、ぐっ、と顔をうつむかせて震えている。