闇喰いに魔法のキス
*嘘をつくよ
キィ…
いつもより重く感じる酒場の扉を開けると
私の目に飛び込んできたのは、ソファに腰掛けてタバコを吸う青年の姿だった。
「!ロディ…?!」
私の言葉に、ふっ、とこちらを向いたロディは、色気のある笑みを浮かべて口を開いた。
「よぉ、嬢ちゃん。」
よ、“よぉ”って…。
普段通りのロディに、私は歩み寄りながら尋ねる。
「どうしてここに?
モートンから聞いたけど…絶対安静じゃなかったの?」
「いや、もうだいぶ動けるんでな。
モートンがログハウスを留守にした間に逃げてきた。」
…!
“逃げてきた”って……
モートンが私と会っている間に、ってことだよね?
モートン、せっかくたくさん食材を提げてたのに。
しれっとタバコの煙を吹かすロディに、私は小さく笑って彼を見つめた。
…でも、もうだいぶ顔色がいいみたい。
ほっ、と息をつくと
ロディが何かに気づいたように視線を落とした。
「嬢ちゃん、その手に持っているのは何だ?」
!
どくん…!
体が緊張に包まれた。
ロディは、少し目を細めて小瓶を見つめている。
“これは、魔力を持つ者しか開けられない小瓶”
ルオンの声が、頭の中にこだまする。
ごくり、と喉が鳴った。
私は、少し躊躇しながら口を開く。
「あの…ロディ。お願いがあるの。」
「ん…?」
「この小瓶を、開けてみてくれない…?」
「小瓶?」
ロディは、タバコを灰皿に押し付けると
私から小瓶を受け取った。
そして、小瓶を注意深くまじまじと見つめる。
私の心臓は鈍く音を立てている。
「何も入ってないが…開ければいいのか?」
私は、ぎこちなく頷いた。
ロディの指が、小瓶のフタにかかる。
ギュ……!
!
小瓶は、ロディの手の中で小さく音を立てるが、フタが開く気配はない。
すると、ロディが苦笑をしながら私に言った。
「…っと、固いな。
何なんだ、これ。嬢ちゃんが閉めたのか?」
私は、はっ!として小瓶を見つめた。
…ロディは、魔力を持っていない。
だから開けられないんだ…!
その時
ギシ…、と床が軋む音が聞こえた。
ぱっ!と私とロディが視線を向けると
酒場の奥からレイが現れた。
!
レイと目が合った瞬間
ぴくっ、と体が震える。
「ルミナ…!帰ってたのか。」
レイは、少し落ち込んでいる様子で私に近づく。
私の目の前まで来た時、レイは私に小さく声をかけた。
「さっきは、悪かった。無理やり引っ張ったりして…。
手、痛くねぇか…?」
「う、うん…大丈夫だよ。」
レイは、私の言葉を聞いて
少しほっ、としたように顔を緩ませた。
微かに肩の力を抜くと、レイはいつものポーカーフェイスで私を見る。
…レイ…。
ごめんなさい。
私、レイの忠告されてたのに
ルオンに会ってしまったの。
私は、レイに気づかれないように、ぎゅっ、と手のひらを握りしめる。
すると、その時
レイが微かに眉を動かした。
私が瞳を揺らした瞬間
ひた…、とレイの手が私のおでこに触れる。
…!