闇喰いに魔法のキス
*はぐれ魔法学者モートン
それから少し歩き、サンクレヘナの街はずれまで来たところで、目の前に木が深く生い茂った森が現れた。
レイが言うには、この森の中に、薬草を育てている人がいるらしい。
「ここって、人が住める場所だったのね…?てっきり、誰も寄り付かないのかと思ってた。」
私の言葉に、レイは眉を寄せて答える。
「普通の奴なら、こんな樹海に近寄らないだろうな。あいつ、すげー変わり者だから。いつも魔法の研究ばかりして……」
魔法の研究?
そこまで言ったレイは、はっと口をつぐんで再び黙り込んでしまった。
薬草を育てている人って、魔法使いなんだ…?
少し緊張しながら、レイの後に続いて歩く。
本当に樹海だ。
奥に進むにつれて生い茂った葉で太陽の光が遮られて、薄暗くひんやりしてくる。
レイの知り合いって、一体どんな人なんだろう?
それから少し歩くと、急に目の前が開けて小さなログハウスが現れた。
家の周りには綺麗な花や変わった形の草が栽培されている。
私は、ふとその中の一つに目が止まった。
「あ…!この植物、見たことある…!」
それは、深い緑色をした薬草だった。
確か、お父さんが持っていた魔法書の表紙に、これに似たものがよく書いてあったような…?
すると、レイが植物を見ながら言った。
「これは“千歳草”。サンクヘレナに古くからある植物で、魔法書にも記されているみたいだな。傷の回復を早める力があるから、ルミナの傷もこれですぐ治るだろ」
やっぱり、魔法書に載っている植物なんだ。
魔法と何か関係があるのかな…?
傷を治せるから、“長生き出来る”という意味で名づけられたのかもしれない。
私がログハウスに向かって歩き続けていると、前を歩いていたレイが急に立ち止まった。
「レイ、どうしたの?」
あやうくぶつかりそうになって止まった私はレイを見上げて尋ねる。
すると、レイはまっすぐ目の前を見つめて、静かに答えた。
「あいつ、家の周りに闇避けの魔方陣を張ってるんだ。うかつに近づくと、攻撃される。」
えっ!?