闇喰いに魔法のキス
*闇喰いに魔法のキス
ピチチチ……
窓の外から、小鳥のさえずりが聞こえた。
「……ん…。」
目を覚ますと、隣にレイはいなかった。
そこにすでに温もりはなく、シーツが冷たい。
この部屋からレイが出て行ってから、だいぶ時間がかかる経っているみたいだ。
……レイ…?
私は、ゆっくり起き上がって、部屋を出る。
トントントン…
階段を降りてキッチンを覗くが、そこにもレイの姿はなかった。
レイ、どこ行ったんだろう…?
その時
テーブルに置かれた一枚のメモが目に入った。
手にとって見ると、そのメモには見慣れたレイの筆跡が。
“少し外に出てくる。
スープを作っておいた。温めて食べろ。”
…お出かけ?
買い出しかな…?
そこまで考えた時、私の脳裏に三日前の記憶が蘇った。
“ “三日後”…ですか…?”
“はは…っ!俺は、逃げも隠れもしないって言ったじゃないですか。
今さら悪あがきなんてしませんよ。”
あ…、そういえば…
三日後って、今日だ。
レイは、予定があるみたいだった。
ガロアさんと何かあるのかな?
私は、あまり深く考えずに、メモをポケットにしまい込んだ。
キッチンを見ると、鍋の中には、ほうれん草と玉ねぎの入ったコンソメスープ。
…わぁ。
美味しそう……!
私は、スープを少しかき混ぜて、温めるためにガス栓を開けた。
しかし、皿を用意し始めたあたりで、シンクにも乾燥機にも、レイの分の皿が置いてないことに気がついた。
…レイ、もしかして朝ごはんを食べずに出かけたのかな。
それなら、私もレイが帰ってきたら一緒に食べよう。
私は、用意した皿を戻し、キッチンを出た。
時計の針は、午前八時を指していた。
……この時の私は、なにも知らなかった。
レイが、スープを飲まなかった理由を。
朝、出かけて行った理由を。
メモの字が、微かに震えていた理由を。
今日が、私を守ってきてくれた闇喰いギルとの、別れの日になるなんてことを…。