闇喰いに魔法のキス



頭の中が、真っ白になった。


“処刑”の二文字だけが、濃く脳裏に浮かぶ。


レイの碧眼が、眩しく見えた。



言葉が出ない私に、レイは静かに続ける。



「タリズマンに正体がバレた時から…いや、俺が闇喰いを始めた時から、こうなることは決まってたんだ。

闇とはいえ、他人の命を奪ってきたことに変わりはないからな。」



その時、私の頭にかつてのミラさんの声が蘇った。



“今回は、ギルの逮捕は保留にするとの判断が下されました。”



“…勘違いはしないで。今は、国民の平和を奪うダウトの捜査を優先するだけであって、あなたを見逃すわけじゃない。

…“その時”が来たら、必ずあなたを捕まえます。”






私は、全てが繋がったような気がした。



…“その時”が…

来たっていうこと……?



私は、ぐっ、と手のひらを握りしめて震える声で尋ねた。



「しょ…処刑って……?」



すると、モートンと顔を見合わせたロディが私に向かって口を開く。



「俺とモートンは、ギル隠匿に加えて手助けまでした。

長い懲役を与えられるか…ずっと本部の地下牢から出てこれないかもしれないな。」



ぞくっ…!


私は、体が震えて呼吸が上手く出来ない。



ずっと地下牢に……?



私は、ごくり、と喉を鳴らして呟いた。



「レイと、ルオンは………?」



すると、ルオンがまつ毛を伏せて小さく答える。



「僕と兄さんはブラックリストに載っている指名手配犯だし、それなりに罪も重ねてきたから

ロディたちと同じく一生地下牢に閉じ込められるか……最悪、“死刑”だろうね。」



!!



“死”………………



私の呼吸が一瞬止まった、その時

サンクヘレナ中に、十二時を告げる鐘がなった。



ボーン、ボーン、ボーン



街に鐘の音が鳴り響く中

酒場の窓がガタガタと震え、窓の外に二人のタリズマンの姿が見えた。





あれは、ガロア警部とミラさん…!



瞬間移動魔法で起こった風がおさまると

キィ…と酒場の扉が開いて、二人のタリズマンと目が合った。



どくん…!



嫌な胸騒ぎがした。


二人は、白いマント。

明らかに酒場に来た客ではない。


その時、タリズマンを見て微かに眉を寄せたレイが

私に向かって口を開いた。



「ルミナ。」






名前を呼ばれ、はっ!と顔を上げると

レイは優しい瞳で私を見つめていた。


全てを受け入れたような、その穏やかな表情に、私は胸が苦しくなる。



レイは、私の髪を撫で、頬を軽く触れた。


…まるで、初めて会った時のように。



「俺たちが出て行ったら、必ずスープを飲むんだ。

分かったな。」



小さく耳元で囁かれたその言葉に、私は目を見開いた。



“スープ”………?



レイが、すっ、と私から離れた。


その瞬間、タリズマンの瞳が輝き出し

レイたちの体が光に包まれる。



っ!!


“瞬間移動魔法”…?!




「やだ…っ!レイ、行かないで!!」




私は、レイに向かって手を伸ばしたが

その指は彼のコートをかすめただけだった。



レイの姿が消える瞬間

彼の優しい声が、耳に届いた。




「………今まで、ありがとな。」



「…!」



…シュン…!



酒場に一人残された私は

ただ、立ちすくむことしか出来なかった。



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