闇喰いに魔法のキス
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…何分、そうしていたんだろう。
放心状態から私を現実に引き戻したのは
ぐぅ…、というお腹の鳴る音だった。
……こんな時にもお腹がなるなんて。
私、図太いのかな…。
私は、ふらふらとキッチンへと向かう。
目の前には、スープの入った小さな鍋。
別れ際のレイの言葉が蘇る。
“俺たちが出て行ったら、必ずスープを飲むんだ。
分かったな。”
…レイは、どうしてあんなことを…?
その時
部屋のゴミ箱に、どこかで見覚えのある
“小瓶”が捨ててあるのが目に入った。
…?
なんだっけ、この“小瓶”。
私が目を細めた、次の瞬間
はっ!とした。
「これ、モートンから預かった小瓶だ…!」
言葉にすると、記憶も鮮明になってくる。
そう、この小瓶はレイが記憶を失った時に私がモートンから預かった
“レイに関する記憶をなくす薬”の入った小瓶。
それが空になって、捨てられてるってことは……
私は、全てを理解した。
もしかして、レイはこのスープの中に薬を入れて
私が全てを知って悲しむ前に私から自分たちの記憶を消そうとしていたの…?!
そう考えると、今までのレイの行動や発言に納得がいく。
昨日、観覧車に乗っていた時に私が“次のデート”のことを話した時、レイは言った。
“…あんま可愛いこと言うな、ばーか。”
あの時は浮かれて気づかなかったけど、レイは頷いていなかった。
照れたフリをして、はぐらかしたんだ。
“次”が無いことを、知っていたから。
…レイ。
最後の最後まで、私のために、真実を語らないで……
結局、あなたは何も変わってない。
私は、ぎゅ…、と小瓶を握りしめた。
「…………ばか……」
私は、ばっ!と小さな鍋を手に持ち、シンクにスープを全て流した。
……飲めるわけない。
だんだん、私を包んでいた悲しさを、別の感情が凌駕していく。
このまま、レイたちとさよならするなんて、嫌だ…!
私は、ダダダ、と廊下を走り、離れの部屋に向かう。
そしてクローゼットからコートを出して羽織ると、深呼吸をして覚悟を決めた。
……本部へ、向かう。
何としてでも、レイたちにもう一度会う…!
私は、小瓶をポケットに入れて走り出した。
その先に、レイと再び会える未来があると信じて。