闇喰いに魔法のキス
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「……って、気合を入れて来てみたけど…」
私の目の前には、そびえ立つ白い建物。
まるで城のような荘厳な雰囲気に、ためらいが生まれる。
…軽い感じで入れない…。
ここって、タリズマンか、犯罪者しか立ち入らない場所だから
私みたいな子どもがウロウロしてたら、絶対声をかけられるよね。
私は、注意深く周りを見渡して考えた。
…レイたちは、どこにいるんだろう。
まさか、もう地下牢に入れられちゃったのかな…?
いや、まだそうと決まったわけじゃない。
事情聴取とかで、どこかの部屋にいるのかもしれないし……
私は、覚悟を決めて足を踏み出した。
大きく、重い扉に手をかける。
……ギィ………
コツ…、と一歩中に足を踏み入れると
そこは、ピリッ、とした雰囲気の漂うロビーだった。
数人の白マントたちが忙しそうに仕事をしている。
…うっ!
一瞬ひるむが、自分を奮い立たせて歩き出した。
…素直に“面会させてくれ”って頼んでも、聞いてもらえないよね。
ロディたちはともかく、レイたちはブラックリストの犯罪者だし……
と、その時
ぽん、と誰かに肩を叩かれた。
「っ!」
驚いて振り返ると、そこには全く面識のない男性二人組。
タリズマンではないようだけど
お揃いの赤い制服、胸のバッジや腕章から、犯罪者ではなく、どこかの国の警察部隊の人だということが分かる。
深い青色の長い髪を束ねた男性と、ワインレッドの髪の青年が私を見つめていた。
…この人たちは、一体…?
警戒していると、長髪の男性が私に向かって声をかけた。
「突然すまない。俺たちはサンクヘレナに視察に来ている者だ。
罪人ではないようだが、君はここで何をしている?」
!
何て答えればいいのか分からず、私は動揺して彼らを見つめた。
すると、ワインレッドの髪の青年が、ふっと笑って口を開いた。
「ブラッド隊長、ダメだなぁ。女の子には、もっとフランクに声かけないと。
彼女、怯えてるじゃないですか。」
「うるさい。軽く声をかけただけだろうが」
言い合いを始めた彼らに、私は少し警戒心を解く。
…この人たちは、タリズマンじゃない。
うまく誤魔化せれば、見逃してくれるかもしれない…!
私は、彼らを見つめながら口を開いた。
「えっと…私は、今日は許可を取って本部の見学をしてる者です。」
「「見学?」」
私は、動揺を悟られぬように、にっこり笑って言葉を続けた。
「私は将来、タリズマンになりたいと思っていて、普段の隊員たちの仕事の様子をみたいなって思って…!」
すると、ワインレッドの髪の青年が目を輝かせて言った。
「へぇ!そうなのか。そういえば、この国の警察部隊は女性も入れるんだもんな。
いいねぇ。うちの国は男しかなれないから、羨ましいよ。」
…!
何とか、誤魔化せてる…?
私が、ほっ、と息をついた、その時だった。
「…本部は、犯罪防止のため、一般に公開されてないはずだが?」
っ!
深青の長髪の男性が低く言った。
私は、びくっ!と肩を震わせる。
彼は、髪と同じ深青の色をした瞳を細めて私を見る。
「もう一度聞く。
君は、ここで何をしている?」
!
ま、まずい……!