闇喰いに魔法のキス


それを聞いて、私は少しほっ、とする。


…って、なんでほっとしてるんだろう。

昨日見た、かっこよくて紳士なギルのイメージが崩れなかったから…。


ごめんなさい、モートン。

あなたがギルじゃなくて少しよかったと思ってしまいました。


その時、ふと昨日のギルの姿が頭に浮かぶ。

私を襲った闇を、次々と消していったギル。

私は、白衣の袖で眠そうに目をこするモートンに、魔法書を指差しながら尋ねた。


「普通の闇が使う攻撃魔法は、この魔法書には載ってないんですよね?」


すると、モートンは目をしぱしぱさせて口を開いた。


「えぇ、攻撃魔法はここに記されていません。魔法書に載っている闇魔法はすべて“リバウンド”が起こるものだけです。」


リバウンド?

聞きなれない言葉に首をかしげると、モートンは少し考え込むような仕草をした後、私の方をまっすぐ向いて答えた。


「人を呪わば穴二つと、言うでしょう?リバウンドは、必ず相手を傷つける代わりに、自分にもその代償が跳ね返ってくるというものです。」


代償が跳ね返ってくる…?

自分も攻撃を受けるということ?


確かに、なんのリスクもなしに大きな力を手に入れることなんて出来ないよね。


モートンは、そのまま言葉を続ける。


「相手に与えるダメージが大きければ大きいほど、自分に返る代償も大きくなります。魔力のない低級が遊び半分で使うと、命を落としかねません」


ぞくっ!と体が震える。


命を落とす危険もあるんだ。

やっぱり闇魔法なんて、人にとって悪い影響しか与えない。

モートンは「まぁ、闇魔法を扱えない低級は、そもそもこの魔法書の解読なんて出来ませんけどね」とさらりと続ける。


その時、私の頭にギルの姿が浮かんだ。

ギルは相手を攻撃するどころか、闇を跡形もなく消していた。


あれは、普通の攻撃魔法なの…?


私は、嫌な予感がしてモートンに尋ねた。


「あの…ギルの使っている魔法は、ただの攻撃魔法なんですか…?」

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