闇喰いに魔法のキス



****



「ふふ、ふ♩ふーん、ふふ♫」



鼻歌を歌いだすレイを、眉間にシワを寄せたロディが支えて歩く。



レ…レイ。


こんなレイ、初めて見た。



レイの顔はいつものポーカーフェイスと違って、子どもみたいにニコニコしてる。



ちょっと…

いや、だいぶ可愛い…。



私がレイの顔を見つめていると

ロディがため息をつきながら言った。



「外で酒を飲ませるんじゃなかったな。

もう、酒場でもコイツに酒を飲ませるのはやめよう。」



…!



確かに、酔う度にこんな感じになってたら

私、心臓もたないかも…。



“お前、ほんと可愛いな♡

もう、ぜったい離さねぇ♡”



うっ!!


レイの言葉が、頭の中でリピートされる。



あの悪魔から、あんな甘い声聞いたことない


無邪気…っていうか、甘えてる子どもみたいな声。



…普段は聞けないレアボイスだ。


絶対忘れないでおこう…。



その時

ロディがレイに向かって声をかけた。



「おいコラ、しっかり歩けっ。

…ふー。今日は酒を飲むから車じゃないのがデカイな。魔法が使えたら、瞬間移動魔法で一発なんだが。」






確かに、瞬間移動魔法なら

ロディが頑張ってレイを引っ張って歩かなくても、一瞬で酒場まで帰れる。



以前のレイなら使えたんだけど…。


…まぁ、使えたら使えたで、今のレイはいろんなトコに飛んじゃいそう。



するとその時

急にレイがしょぼん、として鼻歌をやめた。


そして、寂しそうな声で呟く。



「そぉなんだよ…俺、すげー役立たずになっちまった…。

闇とも、もう戦えねぇもん…。」



…!


こ、今度は“泣きモード”…?!


可愛いけど…っ!



すると、ロディはレイに向かって言った。



「仕方ないだろ。今までの罪を償わなきゃいけないんだから。

…まぁ、これから何があったとしても、俺がお前の“右腕”でいてやるから安心しとけ」







ロディ…。


やっぱり、二人は最高の相棒なんだね。



その時

レイが、ぱっ!と笑顔になって、そのままロディの腕を掴んだ。



「おー、やっぱりロディはかっこいいなっ!

惚れ直したっ♡」



「黙れ、酔っ払い。

…っ、あーもー、離せバカ…!」



ロディがレイを振り払った所で

ちょうど目の前に酒場の赤い屋根が見えてきた。


酒場の前まで到着し、私が扉を開けると

ロディはレイをソファの上に放り投げた。


「っ!」という声とともに、レイの体がソファへ沈む。


ロディは肩に手をやりながら、私に向かって口を開いた。



「悪いが嬢ちゃん、後は頼むな。

水飲ませてほっとけば元に戻ると思うから」



「あ、分かった!

ありがとう、ロディ…!」



私の言葉に、ロディは小さく笑って

タバコを片手に酒場を出て行った。


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