闇喰いに魔法のキス


ぎくっ!とした仕草を見せる二人に、私は首をかしげる。


どうしたんだろう?


すると、ギルがどこかぎこちなく笑いながら口を開いた。


「い…いや、僕は住んでないよ。あの酒場に住んでいるのは、レイだけさ。ほら、ロディがよく酒場にいるから、何かあったらすぐ僕に連絡出来るってことだよ」


あ、そうか。

ギルとすぐ連絡が取れるロディの側に私がいれば、闇が来たとしてもすぐにギルが駆けつけてられるってことね?


私が納得したのを見ると、二人はどこか安心したように呼吸をした。

その時、私の頭にレイの姿が浮かぶ。


私が酒場で暮らすってことは、離れと言っても、レイと同居するってことだよね?


私は、不安になってギルに言った。


「もし、酒場が闇に襲われたらレイに迷惑がかかっちゃうよね?それに…レイが一人で暮らしていたのに、私が急に押しかけるのは申し訳ないよ」


すると、ギルは優しく笑いながら言った。


「そんなことは気にしないでいいんだよ。レイには、ちゃんと話をつけておくし、俺は酒場よりもルミナを優先するから……」

「え?」

「な…なんでもないよ。あはは」


ギルの口調に少し違和感を覚えたが、私は黙って頷いた。

ロディは複雑な顔でギルを見ている。


それより、レイは、ギルと顔見知り程度って言ってたはずなのに…同居の話をつけるなんて出来るのかな?


私はそんな疑問を覚えたが、ギルのどこか余裕に満ちた態度に不安が消えていく様な気がした。

ギルは、私を見ながら優しく微笑むと、ゆっくりと口を開く。


「じゃあ、さっそく酒場に向かおうか。」


え?

まさか、今日から同居するの?


と、私が目を見開いた、その時だった。


ピピ─────ッ!


聞き覚えのある笛の音。

とっさに、ギルとロディの顔が険しくなる。


ギルが、ばっ!と座席から車の後方を見つめて言った。


「タリズマンが追いかけてきたみたいだな。どうする、ロディ。このまま走り出すか?」


すると、ロディはあごに手を当てて考え込んだ後、私とギルを見つめて言い放った。


「車で逃げると、エンジン音や、タイヤ痕を追跡される。それに、森の中の言ってもこの愛車じゃ目立つだろ」


確かに、真っ赤な車は夜だと言っても目立つよね。


じゃあ、どうすれば……


すると、ロディはガチャ!と車のドアのロックを外した。

私とギルが驚いてロディを見ると、ロディはタバコに火をつけながら口を開く。


「お前たちは歩いて酒場へ向かえ。俺はここに残る。ギルは逃げたことにして、嬢ちゃんのこともタリズマンにはうまく誤魔化しておく」


ロディが囮になるってこと?!


私が動揺していると、ギルは迷う素振りもなく私の横のドアを開けた。


「行こう、ルミナ。ロディのことは心配いらない」


私は、ギルに促されるままに車を降りる。

すると、続けて降りようとしたギルの外套をロディが、ぐいっ!と引っ張った。

そして、私に聞こえないくらいの小さな声でギルに耳打ちする。


「俺はラドリーさんから、お前が嬢ちゃんに手を出さないように見張れと頼まれてるんだ。…同居するからって調子乗ったら、どうなるかわかってるよな…?」

「わ…わかってるわかってる。正体もバレないように上手くやるって…!」


…?

何を話しているのかな?
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