闇喰いに魔法のキス


じろ、と睨むロディの視線から逃げるように車を降りたギルは私の隣で苦笑した。


「行こうか、ルミナ。タリズマンに見つかる前に…」


私はギルの言葉に、こくんと頷いて、彼の後に続いて森の中へと入って行った。



****



ホー…ホー…


夜の森に、フクロウの声が響く。


空に浮かぶ月が、私たちを淡い光で照らした。


森の中といっても、モートンの樹海と違い、整備されている道は所々にあるランプのおかげで道が見える。


「瞬間移動魔法が使えたらいいんだけど…魔力を使うと、タリズマンに嗅ぎ付かれるからな…」


私は、ギルがぽつり、と言った言葉を聞いて彼に尋ねた。


「タリズマンは魔力を追って来れるの?」

「僕たち魔法使いは、姿形や声を魔法で変えることができる。だけど、魔力の波長だけは変えられない。指紋みたいに一人一人違うんだ」


だから、ギルの魔力が察知されると、ギルの居場所まで知られちゃうってことか。


私は、ギルをちらり、と見上げた。


姿形も、声も変えられるんだ…?このギルは本当のギルなのかな…?


私がちらちらと見ていると、ギルは少し苦笑して言った。


「そんなに僕が気になる?ルミナに見られると落ち着かないな」

「えっ!ご…ごめんなさい。」


盗み見てるの、バレてた…!


とっさに目をそらすと、ギルは小さく笑ってそして少し真剣な声で言った。


「僕に近づきすぎちゃダメだよ。ルミナと僕は、住む世界が違うんだ」


私は、その言葉に、はっ!とした。

初めてギルに会った時の彼の言葉が頭に響く。


『こっちの世界とは、切り離された場所にいて欲しかったんだけどね』


ギルは私の方を見ずに、ぽつり、と言った。


「正しくあろうとすればするほど…僕は間違っていくんだ」


どういう意味…?


私がギルを見上げると、私の視線に気づいたギルが視線を落として口を開いた。


「時計台でのことだってそうさ。あの時タリズマンが来なければ、僕は闇を……」

「“消していた”……?」


私がギルの途切れた言葉の続きを口にすると、しぃんとその場が静まりかえる。

その沈黙は肯定を意味していた。

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