闇喰いに魔法のキス
「…ギルは“闇喰い”。“闇”じゃないわ。」
「!」
やっとの思いで出した声は、少し掠れて弱々しく聞こえた。
ギルは、目を見開いた。
そして、少しの沈黙の後
すっ、と歩き出しながらぼそり、と答えた。
「…………僕は“闇”だよ。」
!
確かに私の耳に届いたその声は
どこか感情を押し殺すような響きだった。
ギルは、そのまま振り返らなかった。
……ギルは、優しい。
どうして、こんなに優しい人が
タリズマンに追われる罪人なんだろう。
…私は、自分の非力さをここまで悔しく思ったことはない。
私が自分の身は自分で守れるほどの魔力を持っていたら…
ギルにこんな罪を背負わせることはなかったのに。
「…ギル!」
私の声に、ギルはぴたり、と立ち止まる。
私は、彼の背中に向かって叫んだ。
「私のために犯した罪なら、それは“二人の罪”なはずなの…!
あなただけが“悪”なんじゃない!」
ギルは、はっ!としたように体を小さく震わせる。
私は、彼をまっすぐ見つめたまま言葉を続けた。
「私はあなたに守られてばかりで、役に立てることなんて一つもないけど…
私の体からシンが解き放たれるまでは、あなたにそばにいて欲しい…!」
離れていく、なんて言わないで…。
忘れろ、なんて言わないで…!
「わがままばかりでごめんなさい…!
だけど、あなたがいいと言ってくれるなら…これからも私に力を貸して…」
その時
ギルが私の方へ、くるりと振り向いた。
コツコツ、と早歩きで私へと向かってくる。
「っ、ギル…………?」
目の前に来た彼の名を私が呼んだ瞬間
ギルが、ぎゅうっ!と私を抱きしめた。
!
それは、力任せではない。
強く抱きしめたいのをこらえるかのような
優しく、包み込むような強さだった。
ドキドキして固まっていると
耳元でギルの甘い声がした。
「…僕は、君を守るためだけの闇喰いだから。
僕の全てで、君を守るよ。」
…!!
……ギル………。
…今なら……
あなたを抱きしめ返しても、いいでしょうか?
私が、ゆっくりとギルの背中に手を回した
その時だった。
『やーっと見つけた…。
……いいとこ邪魔して悪いけど。』
「「!」」