闇喰いに魔法のキス



私は、その言葉を聞いて体の力が、ふっ!と抜ける。

すとん、とその場に座り込んだ。



…よ……よかった……!

ギルは、無事なんだ………!



私が安堵の息を吐いていると

ロディは私に向かって声をかけた。



「俺はレイの代わりに、嬢ちゃんを迎えに来たんだ。

…準備はいいか?」



…!



“レイの代わり”?



私は、その言葉に違和感を覚える。




「ロディ、レイはどうしたの…?」


「あー…、レイは今日は動けないんだ。」



!!



私は、はっ!と目を見開いた。



「う…動けないって、どういうこと?!

まさか…………」



“ギルみたいに大けがをしたから”



そう言おうとした、その時だった。



「レイはただの“二日酔い”。

気にしなくても、明日にはよくなる。」



え?



ロディの言葉に、私は目を丸くした。



“二日酔い”?



ロディは、笑いながら私に言う。



「昨日酒を飲みすぎて、夜道で転んで茂みに頭から突っ込んで、外套をビリビリにするほど酔っ払ったらしくてな。

頭が痛くてベッドから起き上がれないらしい。」



!!



私は、早口でロディに尋ねる。



「昨日レイに会った時、レイの外套には血の染みがたくさんついてたはずなんだけど……」



すると、ロディは「あぁ。」と思い当たるように声を上げた。



「それ、赤ワインだろ。

昨日、派手にこぼしたらしいからな。」



えぇっ?

“赤ワイン”…?!



私は、頭の中で、昨日の記憶を必死でたぐり寄せる。



…昨日レイの外套が破れていたのは、茂みに突っ込んで木の枝に引っかかったからなの?


…昨日私が見た赤い染みは、血じゃなくて、赤ワイン?



そんな、見間違えるかな…?


でもあの時、酒場の廊下は暗かったから見間違えたのかな…?



…私、てっきりギルの外套だと思って…。


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