闇喰いに魔法のキス
と、その時だった。
目の前で怯えた表情をしていた偽ギルが、いきなり大声で泣き始めた。
「ち…違うよぉ!俺は、ただ頼まれただけでここが何の会場かも知らないんだよぉ!」
……あ"ぁ"?
俺は急に態度を変えて貧弱になった偽ギルを軽蔑した目で見下ろす。
なんだ、コイツ……。
コイツが主犯なんじゃないのか…?
すると、今まで黙ってこちらの会話をスピーカーで聞いていたレイが
俺の電話越しに、イライラしたように声を上げた。
『お前、ギルの名前を勝手に語って好き勝手してたんだろ?
ギルのファンって言ったって、許さねぇぞ…!』
すると、偽ギルは慌てて俺の電話に向かって叫ぶ。
「俺はギルのフリをしてくれって頼まれただけだよぉ!
本当はギルなんて見たこともないしさぁ…!ダウトって、一体なんなんだよぉ!」
…!
何かがおかしい…。
偽ギルの様子を見て考え込む俺に対し
怒りがマックスに達したようなレイは次々と暴言を吐く。
『てめぇ、しらばっくれるのもいい加減にしやがれ…っ!
タリズマンに突き出すぞ!』
「や…やめてぇっ!
俺は“綺麗なお姉さん”の言いなりになってただけなんですぅ!!」
!
俺は、はっ!とした。
頭の中で、全てが繋がったような気がした。
それと同時に、嫌な予感が頭をよぎる。
俺は携帯を片手に偽ギルの胸ぐらを掴んだ。
そして、どくどく、と鈍い音を立てる心臓の鼓動を感じながら奴に尋ねた。
「おい。お前に、俺を襲うように言ったその女の名前は………」
すると、俺がすべてを言い終わる前に
偽ギルは涙を流しながら叫んだ。
「“シルバーナ”っていうお姉さんだよぉ!
うぅっ…ぐすっ。…許してください…っ。」
「『!!』」
“シルバーナ”
その言葉に、俺は絶句した。
……読み違った………!
あの女に、嬢ちゃんを預けてはいけなかった…!
もっと早く、気付いていれば………
その時
電話越しにレイの緊迫した声が聞こえた。
『ロディ、今は後悔してる場合じゃない!
……ルミナが危ない!』
!
俺は、ぐっ!と拳を握りしめた。
そして、不快な音を立てる“警備装置”に視線を移す。
…やるしかねぇか…。
俺は、とっさにカバンから相棒のパソコンを取り出すと
“警備装置”に繋がるケーブルに、持ち込んだコードを繋ぎ、パソコンを起動させた。
絨毯の上に腰を下ろし、膝の上にパソコンを置く。
自分の横に携帯を置くと
流れる手つきで胸ポケットからタバコを取り出し、火をつけた。
そして、電話の向こうのレイに向かって
タバコを口に運びつつ、不敵な声で言い放つ。
「…“三十秒”時間をくれ。
門の側から離れるなよ、“ギル”…!」
『!』
スピーカーの向こうから、はっ、と呼吸をする音が聞こえた。
いくら開発に金がかかってようが、関係ない。
相手が“闇”だと分かった以上、二度と使えないようにプログラムを書き換えてやる。
…俺の力で、この邪魔な機械をぶっ壊す…!
「あ…あのぅ…。
俺はこれからどうしたら…?」
背中から聞こえる、おどおどした声に
俺は低い声で答えた。
「計画が失敗した以上、もうやることはないよな?
今度は俺が“利用”してやるよ。肩入れた後に準備体操でもして待ってな。」
「ひぃぃぃっ!!」
偽ギルの絶叫が部屋に響く中
俺はタバコを口にくわえ、キーボードの上に両手を乗せた。
《ロディside終》