闇喰いに魔法のキス
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「ルミナさん、もう少しですわ…!」
シルバーナさんに導かれるままに、廊下を走る。
…運のいいことに、黒マント達がいない。
ロディが、うまく引きつけてくれてるのかな
私は、胸に込み上げる不安を必死で押し込ながら
ひたすら足を動かした。
西洋風のランプが照らす廊下には、赤い絨毯が敷かれている。
足を進ませるたびに、柔らかな反発が足に伝わる。
…ヒールがある靴を履いてこなければよかった。
もう裸足で走ろうかな…!
その時、前を走っていたシルバーナさんが、ぴたり、と立ち止まった。
…?
私がまばたきをしてシルバーナさんを見つめていると
彼女はおもむろに、壁にかかっている絵画に手を伸ばした。
…ガコン。
シルバーナさんが絵画の裏に手を入れた瞬間
絵の横のなんの変哲もない壁が、いきなり音を立てて奥に動き出した。
…!
驚いて立ち尽くしていると、みるみるうちに人一人入れるほどの横幅の入り口が姿を現した。
入り口を覗くと、地下に向かって階段が伸びている。
まさか、これが“隠し通路”…?!
こういうのって、本当に存在するんだ…!
財閥の屋敷のシステムに感動して目を輝かせていると
シルバーナさんは、にこり、と微笑んで私に言った。
「さ、この中に入れば安全ですわ。
ルミナさん、どうぞお先に。」
「え?あ、ありがとうございます…!」
私は、ごくり、と喉を鳴らして隠し通路へと足を踏み入れる。
そして、シルバーナさんが私の後ろから隠し通路に入った瞬間
ゴゴゴ…、と低い音を立てて入り口が閉まった。
ぽぽぽ、と階段脇のランプが灯る。
す…すごい……!
このシステムに、いくらかかってるんだろう…!
その時、シルバーナさんが私の背後で小さく呟いた。
「ルミナさん、足元に気をつけて奥に進んでください。
…入り口はここしかありませんから、これで誰も入って来れませんわ。」
「はい…!」
私は、緊張しながら階段を下りる。
…だんだん、ひんやりしてきた気がする。
地下室に向かっているからかな?
コツ…、コツ…、と二人分のヒールの音が、通路に響いた。
私は、階段を下りながら考える。
…そういえば、結局偽ギルに会えなかったな。
まさか、本物の闇が襲ってくるなんて思わなかった。
私は、前を向いて階段を下りながら
後ろを歩くシルバーナさんに声をかける。
「シルバーナさん、色々迷惑をかけてすみません。
わざわざパーティに招待して頂いたのに、私の私情で、かくまってもらうことになっちゃって…。」
私の体にシンが宿っていなかったら、普通に外に逃げられたはずだ。
…シルバーナさんまで巻き込んでしまった。