闇喰いに魔法のキス




体が、一瞬で硬直する。



な……

なんで……?!



私が予想外の展開に目を見開いた時

先ほどの黒マントの声とは違う、優しく、私を包み込むような声が耳元で聞こえた。




「…ずいぶん勇敢なお姫様だね。

“騎士”が来る必要はなかったかな…?」




…!

こ…この声って………。



私が、抱きしめられたまま、ぱっ!と顔を上げると

綺麗な薔薇色の瞳と目が合った。



私が、はっ、と呼吸をした瞬間

石造りの地下室に、シルバーナの怒号が響いた。



『ちょっとあんた、何いちゃついてんの!

普通に捕まえなさいよ!手荒でも構わないから!』



シルバーナは、まだ気づいてないようだ。

……この“黒マント”の正体に。



その時、すっ、と黒マントが私から離れ

床に落ちていたヒールを拾って私に手渡した。



そして、彼はシルバーナに向かって言い放つ。




「それじゃ命令通り、タリズマンが来る前に逃げさせてもらうよ。

…あんたを逃す気は無いけどね。」



『!』




凛とした声に、私は体が震えた。


一気に、緊張がほぐれる。



危機的状況に変わりは無いのに、安心感が胸の中に広がった。



シルバーナは、うろたえて黒マントに向かって叫ぶ。



『な…何を言っているの?!

幹部の私に、逆らう気……?!』



その時



私の目の前に、すっ、と出た黒マントが

ブワッ!と魔力を放出させた。



…っ!



とっさに目をつぶって、腕で顔を覆う。


凄まじい強さの風が止み、ゆっくりと目を開ける。



すると、そこには見慣れた外套を着た、黄金の髪の青年の姿。



強い意志を宿した薔薇色の瞳が、まっすぐシルバーナをとらえていた。



「…ギル……!」



私が彼の名を呼ぶと

ギルはそれに応えるように優しく微笑んだ。


その時、ひどく動揺したシルバーナの声が地下室に響いた。



『ギ…ギル?!!どうしてここに…?!

屋敷の周りにはダウトが二年がかりで作った警備装置から、“闇避けの電磁波”が放たれているはずなのに!』



シルバーナは、信じられないと言った様子でギルを見つめる。


すると、ギルは不敵に笑ってシルバーナに答えた。



「簡単な話さ。

…あんたの言った最新鋭の最強防犯システムを、パソコン一台でたった三十秒の間にぶっ壊す“化け物”が、僕の仲間にはいるってことだよ。」



!!


それってまさか、ロディのこと…?!



私は、目の前のギルの背中を見上げた。




…やっぱり、私を守ってくれる人たちは最高だ。

私にはもったいないくらいの“騎士”…!




その時

すっかり形成逆転されたシルバーナが、ギリギリ、と歯ぎしりをして私たちを睨んだ。



『こうなったら、最後の手段よ…!

ギル、あなたにはここで消えてもらうわ!』



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