視線を向けると、時計は11時を過ぎたところだった。

「日づけが変わっていないから、まだ誕生日だよ」

朝比奈さんが言った。

ポンと、彼の手があたしの肩に置かれた。

初めてあたしに触れたその手は華奢だけど、骨張っていて男らしかった。

その手を見つめていたら、
「誕生日おめでとう、小春ちゃん」

朝比奈さんがそう言ったので、今度は彼の方に視線を向けた。

微笑んでいる彼の顔がそこにあったので、
「――ありがとうございます、朝比奈さん…」

呟くように、あたしはお礼を言った。

「今日はもう遅いから、明日改めてお祝いしよう。

今日は小春ちゃんに“誕生日おめでとう”って言えたから充分だよ」

朝比奈さんの手があたしの肩から離れた。
< 103 / 275 >

この作品をシェア

pagetop