朝比奈さんは信じられないと言った様子であたしを見つめていた。

「はっきりと言って迷惑なんです。

あたしはあなたのことを夫だと思っていないのに、あなたはあたしのことを妻だと認めて、あれやこれやと世話を焼くその根性が嫌いなんです」

その顔に向かって、あたしはさらに言い返した。

朝比奈さんの表情は変わらない。

言葉も出ないと言う様子だ。

あたしはそんな彼を視界に捉えると、
「少しだけ距離を置きましょうか?

お互い離れて、それで今後のことをどうするかはっきりと決めましょう。

このまま何事もなかったように生活を続けるのは無理だと思いますよ」
と、言った。

「じゃあ、あたしが出て行きますので」

「――ま、待って…」

呼び止めようとする朝比奈さんに背中を見せると、自室へと足を向かわせた。
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