そう思いながら仕事に集中しようとしたら、
「その問題を作ったのは君の方だ!

君のせいで妻が出て行ったんだ!」

聞き覚えのある声にあたしは視線を向けた。

視界に入ったその光景に、あたしは目を疑った。

「――あ、朝比奈さん…」

その名前を呼んだ声は幽霊でも見たのかと思うくらいに震えていた。

伊勢谷さんが大きな声を出して怒鳴っている相手は朝比奈さんだった。

家出をして以来、会うこともなければ連絡もとっていなかった彼がここにいて、あたしの目の前にいた。

朝比奈さんがここにいる…のは、当然のことだろう。

あたしは仕事でも、彼は休みなんだから。

「な、何なんですか、本当に…。

全くと言っていいほどに意味がわからないんですけど。

第一、あなたの奥さんを知らないんですけど」

呆れたと言うように言い返した伊勢谷さんに、
「上司だから知っているだろ!」

朝比奈さんは何クソと言うように大きな声で怒鳴って、伊勢谷さんの胸倉をつかんだ。
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