つまり、朝比奈さんからしてみればケンカをしたのはあたしが初めてだったと言うことだろう。

今までの彼の行動を振り返ってみると大切にされていた反面、あたしに気をつかっていたようなところもあった気がする。

「俺が本当に何もしなかったから、彼女たちはダメになってしまったんだって言うことに気づいたんだ。

小春ちゃんはそのことに気づかせて教えてくれたんだ」

「…おおげさ過ぎます」

あたしは思ったことを正直に言っただけである。

教えてつもりもなければ気づかせるように仕向けたつもりもない。

朝比奈さんはジッとあたしの顔を見つめると、
「今まで自分が気づかなかったことに気づいたから、もう終わりにしたくないって思ってる。

ダメにさせてしまった時点でもう逃げないって決めたんだ。

だから離婚なんて言わないで欲しい、また俺とやり直して欲しいんだ」
と、言った。

あたしを見つめる彼の瞳はとても真剣で、圧倒されそうになった。
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