体温も高いのか、あたしの躰は彼の温度に包まれた。

ああ、この香りは柔軟剤だ。

朝比奈さんが香水を使っていると言うことを聞いたこともなければ、香水を使っているところも見たことがない。

だから、これは洗濯に使われている柔軟剤の香りだ。

そう思ったとたん、ドキッ…と心臓が鳴った。

何これ、柔軟剤なんてあたしの服にも使っているじゃないのよ。

なのに意識してしまっている自分がここにいて、どうすればいいのかわからない。

頬をくすぐっている柔らかい明るい茶色の髪の毛先から、あたしの気持ちが今にも朝比奈さんに伝わってしまいそうだ。

早く離れて…。

早く10秒が終わって…。

あたしの気持ちが彼に伝わる前に、早く約束の10秒が過ぎて…。

心の中で祈っていたら、朝比奈さんがあたしから離れた。

あっ、離れちゃった…。

彼があたしから離れたら離れたで、名残惜しいと思っている自分に気づいた。
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