予想以上に映画はおもしろくて、その出来栄えにあたしは感動した。

だけども、あたしの心の中は複雑だった。

「映画、おもしろかったね」

映画館を出ると、朝比奈さんが話しかけてきた。

「そうですね」

あたしはそう答えると、彼と繋いでいる自分の手に視線を向けた。

映画を見ている間も、朝比奈さんは繋いでいるこの手を離そうとしなかった。

父親の教え通り、彼は“女性を大切にする”と言うことを守っているのだと言うことがわかった。

「朝比奈さん」

あたしは朝比奈さんの名前を呼んだ。

「何?」

そう返事をした朝比奈さんに、
「――あたし、どうしても仕事を辞めないとダメですか?」

先ほどの疑問をぶつけた。

「正直なことを言うと、自分が仕事を辞めた姿を想像できないんです。

結婚しているとは言え、家事のほとんどは朝比奈さんがやっている訳ですから…あたしが家にいて何もしないと言うのは、おかしいんじゃないかと思うんです」

あたしは言った。
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