「気づいていなかったんですか?

仕方ないですよね、言わなかった僕も僕ですから」

伊勢谷さんは苦笑いをした。

「あ、ハハ…」

口では笑い声を出しているけれど、顔は引きつっているかも知れない。

気づかなかったと言えば気づかなかったけど…だけど言われて振り返ってみると、いくつかの心当たりがあったような気がする。

例えば、誕生日の時に食事に誘ってくれたこととか。

「もちろん、ちゃんと言うつもりでしたよ?

でもなかなか言い出せる機会がなくて、気がついた時には田ノ下さんは結婚してて…」

「それは…」

何かすみません…。

「でも田ノ下さんが幸せならそれでいいです。

田ノ下さんが見つけて選んだ相手なら、きっと大丈夫です」

伊勢谷さんが言った。

あたし…と言うよりも、父親が勝手に選んで結婚させられたんですけどね。
< 218 / 275 >

この作品をシェア

pagetop