望まない結婚だったはずなのに、今ではその相手を好きになってしまった。

まだ気持ちを伝えていないと言うのに、そんなあたしを伊勢谷さんは幸せに見えると言うのだろうか?

「それに…僕、異動になったんです」

伊勢谷さんが言った。

「えっ?」

その言葉に、あたしは聞き返した。

伊勢谷さんの異動の話を聞いたのは初めてだった。

「S市の支店に異動することになったんです」

そう言った伊勢谷さんに、
「そうですか…。

伊勢谷さんは確か、S市の隣にあるF市に住んでいましたよね?」

あたしは聞いた。

彼は実家のあるF市から車で通勤しているのだ。

「距離的には近くなりました」

伊勢谷さんが笑いながら返事をした。

笑っている彼にあたしは寂しさを感じていた。
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